第9話 秘密

その日の放課後、美海は急いでお姉さんの家に行き

起こった事を伝えた。


「大丈夫じゃない?魔女って意外にいるものよ?相手が魔女なら、正体がばれちゃいけないルールは無いのわ。」


危機感の無いお姉さんの返事に、少し焦りを覚えます。


「でも、」


言いかけた言葉を、お姉さんが手でさえぎります。


「そんに心配なら直接聞きましょ。出てきて。」


美海がお姉さんの視線を追って、門の方に目をやると、郁美が立っていた。


「いらっしゃい、一緒におやつにしましょ。」


お姉さんが、郁美に手招きをした。




3人は母屋のテーブルでおやつを食べている。

美海だけ緊張で硬くなる、クッキーを食べても上手く飲み込めない。


「びっくりさせてごめんね。」


郁美が言いった。

彼女の話しによると、彼女が魔女の練習を始めたのは1年前。彼女も突然ウォルトに出会い、お姉さんとは別の魔女を紹介されて弟子入りしたそうだ。

しかし、昨年の年末に用事があるから、しばらく留守にする。と言い、いなくなってしまった所に、美海を見つけて、声をかけたのだと言う。


「周りに、魔法の話しが出来る人がいないのが辛かったの。鉄棒にまたがってる美海を見かけた時は、凄く嬉しかった。」


顔をしかめながら鉄棒にまたがっている美海を想像して、お姉さんは噴き出した。

片や美海は、自分の事を誰にも話せない状況は、とても淋しいと想像していた。。

新しい事が出来た時に、お姉さんが一緒になって喜んでくれなければ、自分もこんなに毎日練習を続ける事が出来たであろうか。


「じゃあ、あなたの先生が戻ってくるまで、郁美ちゃんもここに来ても良いわよ。」


郁美の話を聞いて、お姉さんが言った。

それを聞いて、郁美の顔が明るくなった。


「嬉しい。ありがとう。」


「その代わり、もう外で魔法の話しをしちゃダメよ。美海ちゃんも、練習熱心なのは良い事だけど、鉄棒で空を飛ぶ練習をしてはダメ。」


お姉さんの所以外で、魔法の練習はしないと約束しましたが、鉄棒に座るのが魔法の練習に含まれるとは思っていませんでした。


「他の人がしない事をすると、例えそれが誰かに危害を加える事ではなくても、変な目で見られてしまうでしょ。」


いついなく真剣な顔で話しをするお姉さんに、二人は黙って頷く事しか出来ませんでした。


「魔法ってなんだと思う?」


質問が漠然としていて、何と答えて良いのかわからない。

今まで教えてもらった事を一括りにして、どう説明すれば良いでのであろうか。


「魔法はね、自然の力を借りて、少しだけ生活を便利にする物だと私は思うの。でも、魔法を知らない人達は、自然の力を借りる方法を知らないわ。物を冷やしたいと思った時に、私達は自然の力を借りて冷やす事が出来る。あなた達も練習すれば出来るようになる。でも、そんな事をしなくても冷蔵庫があれば冷やす事が出来る。魔法を知らない人達は、知らなくても出来るんだから、知る必要が無いって考えるでしょうけど、私達は冷蔵庫が発明される何百年も前からこうして来たの。」


言っている事はわかるが、お姉さんが何を言いたいのかわからなかった。


「私の先生の先生のもっと先生の頃から、こんな事が出来たら良いな、その為にはどうすれば良いかなって考えて、少しづつ出来る事を増やしていったの。その過程で、魔法を使えない人が病気になったら、薬を分けてあげた。戦争で苦しんでいる人たちが沢山いた時には、少しでも早く終わる様に、これ以上弱い人が苦しまくて良い様に、力を貸した人達もいた。でもね、その結果私達は魔法を使えない人達から、特別な目で見られて恐れられる様になった。たくさんの仲間が酷い目にあった。だから、私達は家族にも自分が魔女である事を知らせない様にして、生活する様になったの。でもね、魔法はとても素敵な知識よ。絶対に無くしてはいけない。だから、あなた達みたいに、偏見を持たずに魔法を見てくれる人に知識を受け継ぐ様になったの。」


お姉さんは、二人の心情を確かめる様に、顔を交互に見つめる。


「あなた達にとって、一番大切な事は、あなた達の幸せよ。その為に魔法が必要なら、自分達の為だけに使って。でも、魔法が使えるせいで、不幸になってしまうなら、それ以上魔法は使わないで下さい。お願いします。」


お姉さんは、机に両手をついて、頭を深く下げた。

美海は、お姉さんが二人の事をとても大切に思ってくれているんだと感じた。


「大丈夫だよ。私は絶対に後悔しないし、幸せになるよ。」


郁美を見ると、彼女も美海の顔を見て頷いていた。


お姉さんは少しの間、頭を下げた体制のまま動かなかった。

その間、お姉さんがどんな表情をして、何を思っていたのか、二人にはわかりません。


「同じ年の魔女の友達がいるなんて、羨ましいな。私の時はとても厳しい先生とマンツーマンだったから、よく隠れて泣いていたのよ。」


そう話すお姉さんの顔は、いつも通りの優しい笑顔だった。

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