第11話 郁美ちゃんの先生

ある日突然、郁美の先生が帰って来た。

二人が下校中に、たまたまその現場に出くわした。郁美は、直ぐにでも先生の所に行きたいのに、人混みが多過ぎて、近づく事が出来なかった。。

何故なら自動車の道路を、馬車が塞いでいたからだ。

警察官がかけつけて、馬車をどかせる様に注意をするが、前にも後ろにも車が詰まった現状でそんな事を直ぐに出来るはずが無かった。

先生が警察官に何か叫んでいるのが遠目からでもわかった。

話の通じない事イライラが爆発したのか、先生は警察官に背を向け、馬車に乗り手綱を勢い良く。

すると、驚いた馬が走り出し同時に宙に浮いて、そのまま飛び去って行った。


「郁美ちゃんの先生凄いね。」


美海ちゃんが耳打ちする。


「そうなの。凄く大ざっぱでパワフルなの。」


郁美が、苦笑いをしながら答えた。

二人がお姉さんの家に行くと、庭に先程の馬車が停まっていた。

母屋では、お姉さんと郁美の先生が楽しそうに話していた。

それを見た、郁美は走り出した。


「先生、何してるんですか!街中であんな目立つことして!しかも、1年ぶりに帰って来るんなら、帰る前に連絡くらいくれても良いじゃないですか!」


いつもは冷静な郁美が、声を荒げて先生に抱きついた。


「あら、おかえり。大丈夫だよ、私の素性はバレていないから、魔法を使った所を見られても、痛くも痒くもないよ。それに、こうして会える事は分かっていたんだから、問題無いだろう。」


郁美の先生は 、45歳くらいの見た目だろうか。あれだけ騒ぎを起こしたのに、全く気にしていない余裕が醸し出されていた。


「郁美ちゃん、こう言う人なのよ。ついた先生が悪いと思って、諦めて。」


お姉さんが笑いながらフォローにならないフォローをする。すると、先生はわざとらしく拗ねた様な仕草をした。


「でも、飛べるんだから、せめて道路に降りなくても良いじゃないですか。」


納得しきれない郁美が、愚痴をもらす。


「アラビア海、南シナ海と抜けて、島づたいに飛んで来たから、地面をゆっくり歩きたかったんだよ。山の中に降りた時は良かったんだけど、段々人が増えてきて。だいたい、あの警察、あんな所で移動しろなんて言われても、普通はどうしようも出来ないよ。」


「先生、普通はあんな所を馬車で歩きません。」


文句を言いながらも、郁美は笑っていた。

美海はそれを見ながら、羨ましいと感じた。

自分は、お姉さんとここまで対等に話せる程、信頼しあえているだろうか。

そんな美海をよそに先生はどんどん話を進め、二台から沢山のお土産を出してきた。

顔よりも大きな木の種、干からびた虫、見た事の無い色の鳥、綺麗な石。どこかの国の装飾品。

それを、一つ一つ楽しそうに説明するので、始めは二人とも楽しそうに聞いていたが、途中で飽きてげんなりしていた。


「さて、今回は少しゆっくりしようと思ってたんだけど、立派な先生がいるから 、安心して旅を続ける事が出るよ。お土産の本当の使い道は、彼女に聞いておくれ。」


一方的に話し続けてして満足したのか、先生はお姉さんに目配せをした。


「郁美、ちょっとおいで。」


二人は庭の隅に移動して、話を始めた。

先生がポケットから何かを取り出して、郁美にわたした。受け取った郁美は、ソレを眺めていたが、急に顔を上げて何かを言っている。

先生が郁美の頭を撫でてから、一緒にこちらに歩いてきた。


「今度は半年くらいで帰るよ。」


そう言って、先生は馬に乗り飛んで行った。


「荷台、置いて行ったね。邪魔だったのかな。」


「うん。凄く大ざっぱでパワフルなの。」


「二人とも、納屋に運ぶの手伝ってちょうだい。」


お姉さんが、腕まくりをしながら言いう。

目が笑っていなかった。

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