第42話 ヴェネトスの迷宮・第二層 食べ過ぎランチと試食(前編)
「話してなかったけど、うちの
――家継精霊。貴族家に多い、代々受け継がれている契約精霊だ。それじゃやっぱり……!
「レッテリオさんて貴族の方だったんですね」
「うん、そう。やっぱり気づいてなかったよね。でも三男坊だし気にしないで。アイリスも先生たちで慣れてるでしょ? 錬金術研究院にも貴族は多いしね」
いいや、慣れてはいない。私が会ったことのある貴族なんてイリーナ先生だけだし、あの素敵なイリーナ先生だって多分一般的な貴族女性じゃないだろうし……。思い返してみるとやっぱり何かこー礼儀作法とかあるんじゃないのかな? と、今までを振り返ってみるてちょっと不安になってしまう。
「 基本的に騎士団では家柄は関係ないし、アイリスもさっきの後輩たち見たでしょ? 本当に気にしないでほしいんだ」
にこりと笑うレッテリオさんは今までと何も変わらない。だけど私の方はというと、突然現れたレッテリオさんの新しい『ラベル』に、ちょっと気後れしてしまう部分があった。
……でも本人が「気にしないで」と言ってるし、別に今まで通りで良い……よね? 急にかしこまるのもおかしいし、貴族だって分かってもレッテリオさんはレッテリオさんだし。
「はい。じゃあお言葉に甘えて今まで通りでよろしくお願いします!」
「うん」
「 あ、レッテリオさん、サンドウィッチのおかわりありますよ? ちなみにこっちはハムじゃなくてベーコンで、チーズもクリームチーズです」
「是非いただきたい」
「アイリス〜ぼくにも〜!」
「え? イグニス食べ過ぎじゃない? ちょっ、おなかポンポンになってるよ!?」
「ん〜? いっぱい火をだしたから〜おなか空いちゃったんだよ〜〜まだパンパンじゃないもん〜」
◆
レッテリオさんは腰のバッグから水筒を出し、追加のサンドウィッチを頬張っている。イグニスも隣でミニチュア版の同じものをモグモグしているのだけど……。
「……レッくん……これあげる〜」
「ん?
イグニスったら小声でこそこそと……。
こんなところも可愛いんだけど、栄養面を考えると(精霊であるサラマンダーに食物からの栄養は必要ない気もするが)食べるからにはバランス良く食べてほしい。
アレルギーでもないし、食べれないほど嫌いって訳でもないのだから。
「イグニス。お肉たくさん食べたいからって野菜除けちゃうの悲しいなぁ?」
「ンン〜……だってこれちょっと苦い? かんじなんだもん〜……甘いのがほしいよ〜」
「今度フルーツサンド作ってあげるから」
「あ、果物持ってるよ? イグニス食べる?」
え! とイグニスの目が輝いた。尻尾までフリフリしている。そしてレッテリオさんは、腰のバッグから拳ふたつ分はある丸々とした
「レッテリオさん、そのバッグそんなに大きいの……入るんですか……?」
確かさっきもそこから水筒を出していた。肘から手首までくらいの大きさで、高さは拳ひとつ半くらいしかないのに。依頼されていた今日の分の携帯食とサンプルは帰りに渡そうと思ったくらい、そのくらい小振りなバッグだ。
探索に必須の携帯食や水、ポーション類、応急手当の道具や小刀でいっぱいかと思っていたのだけど……?
「
レッテリオさんがニヤッと笑った。
ああ、ルルススくんのふしぎ鞄と同じものとか……!
あの鞄は相当手が込んでるだろうと想像がつくし、作り上げるには高い能力の術師と職人さんも必要だって分かってる!
私ではきっと、能力的にも金銭的にも手が出ない! ……貴族の力がうらやましい!!
「ね、ね〜いいからレッくんこれむいて〜〜!」
しかし、だ。
レッテリオさんはどうして王都の騎士団じゃなく、わざわざ少し離れたヴェネティ領の騎士団に居るのだろう?
レッテリオさんの家名は……確か『コスタンティーニ』さん。どこかの領主一族なのか、王都に住む貴族なのか私には分からないけど、何か理由がなければ他領の騎士になんてならないのでは……?
――それに。『コスタンティーニ』という家名は、山間部の温泉地にいた私でも知っている名前だ。
レッテリオさんの名前を聞いた時「あ、同じなんだ」と思ったけれど、まさか貴族の人だとは思わなかったし(いや、その
「うん。まさかだよね……?」
そう。貴族と言っても
だってもし、私の拙いお貴族さま知識が正しくて、レッテリオさんが想像通りの家の人ならば――。
手作りサンドウィッチにこんなにがっつくとは思えないんだよね!?
「レッテリオさん! そっちはイグニスのおかわりですってば! お試し携帯食のビスコッティもありますから……!」
「魔術使ったせいかお腹が空くんだよね? アイリスのサンドウィッチ美味しいし」
「レッくんのばか〜〜! ぼくのお口が火をふくぜぇ〜!」
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