第36話 お弁当をつくろう
「でもまあ、予想外だったけど結果的にはかなり良いよね」
ガサガサ、カサカサ。
「そうにゃね。種類によって差別化ができて良いと思うにゃ」
「おいしいしね〜〜」
ティータイムを終えた私たちは『薬草ビスコッティ』と『キューブパン』を包む作業に勤しんでいた。
ルルススくんが蝋引き紙でビスコッティを包み、イグニスが飴玉や蜂蜜ダイスと同じ様に左右をひねって留めていく。
私は
これなら十日〜二週間は保つはず。
「イグニス、できたやつこっちに入れてー」
「はいは〜い! いくつ入れるのぉ〜?」
「んーサンプル用には六本、明日の持ち込み分は四本でいいかな」
レッテリオさんが副隊長をしているという『迷宮探索隊』のメンバーが何人なのか、確認していないのでとりあえずの本数だ。別に約束をしたわけではないサンプルなので、明日の分と自分の分、それから食べてしまった分の余りだったりするのだけど。
「さて。それじゃあ私はお弁当用のサンドイッチ作っちゃうね。イグニスはルルススくんに工房内を案内してあげてくれる?」
「は〜い! ルルススのお部屋〜? これからここに住むんでしょ〜?」
「ルルススはどこでもいいのにゃ。どこでも寝れるのが特技にゃから」
さすが猫……いや、ケットシーだけど。
「んー……それじゃ私の隣の部屋でいいかな? ベッドとかクローゼット、机なんかの基本的な家具はあるからすぐに使えるよ。あ、寝具はあとで用意するね」
「ここ、アイリス一人にしてはお部屋多そうにゃよね」
「うん。ちょっと前までは他に三人いてね、私の先生と同期の子だったんだけど……」
「ああ、錬金術師昇任試験の時期にゃもんね。いつ帰ってくるんにゃ?」
「だいじょうぶだよ〜帰ってこないから〜! ぼくたちでのんびり暮らそうねぇ〜」
くふふ。と笑うイグニスはとても楽しそうだ。それに反してルルススくんは「んにゃ?」と事情を考えている様。
「えっと……うん、他の人はもう帰らないからお部屋も気にせず好きに使ってね。工房内も錬成室以外は好きに使って大丈夫だから」
「わかったにゃ! アイリスありがとなのにゃ」
「いこういこう〜!」とイグニスがルルススくんの前を行き、ルルススくんも嬉しそうにヒゲをそよそよ、尻尾もピン! と上がってる。
「ふふっ、かーわいい」
ルルススくんとは今日出会ったばかりだけど、三人でのパン作りもティータイムもすごく楽しかった。彼がいつまで居てくれるかは分からないけど、願わくばこの賑やかさが長く続いてほしい。
「さて! 明日の準備もしなくちゃだから早く作っちゃお」
半分に切った田舎風パンを断面から一.五セッチほどの厚さで切り分けたら、柔らかくしたバターに粒マスタードを混ぜたっぷりと塗り付ける。
今回は
「探索隊向けならガッツリ系が良いと思うんだよね」
準備しておいた具材を順番に挟み込む。
まずは川べりで採取したクレソンをたっぷり。次は街で買ってきた厚切りのハム。外側に胡椒がたっぷりまぶされているので余計な味付けは無用だ。
「うすーくスライスした玉葱を散らして
具材は端まで満遍なく……ではなく、特に厚みがあるものは中央に寄せた方が崩れにくくて食べやすい。
「あとは薄切りにしたチーズを乗せて……」
パンと具が馴染んだら、今度は普通の
最初から
今回のオーダーは携帯食だったけど、ルルススくんと話していて思った。
商機は逃してはいけない!
それにサンドイッチは多少嵩張るから、そもそも多くは持って行きたくはないはず。
それならば。
二、三日の道行き用や、疲れた時のとっておきとしての需要はあるのではないかと思うのだ。
「……。なんだか本当にパン屋さんになってしまいそう? ……まあ、いいか」
まずは安定した収入を得て、それから安定した素材の入手、錬成物の売却、それが出来てはじめて来年の試験への対策ができるのだ! と思う! うん!
それから、使った野菜の端切れとベーコンを使ってコンソメスープも作っておいた。
たっぷり作ったので今日の夕食と、明日の探索にも持って行こうと思っている。
キューブパンはそれだけで食事になるけど、やっぱりパンだけよりスープがあった方が良い。明日のような日帰りだからできることかもしれないけど、探索中に温かいものを食べれるのは大きいと思うのだ。
「嵩張らなくて、こぼす心配もなくスープを持ち込めれば良いのだけど……」
圧縮して固めるとか……スープをゼラチンにしておいて溶かすとか……?
うーん。あのふしぎ鞄を持ってるルルススくんにはこんな悩みはないんだろうなぁ。
「うん。そのうち何か考えてみよ!」
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