第13話 お手をどうぞ、錬金術師さん
錬金術と言えば『薬』や『金属』など、物質を変化させる術が一般的なイメージだ。
だけど実際の錬金術には大きく分けて2種類があって、まず『物質を変化、錬成する』術。それから『魔力を糧に事象を錬成する』術。
どちらも根本的には同じことなのだけど、やっぱり目に見える物質の錬成の方が分かりやすい。
それに、単純に『日用品』や生活に密着している『道具』として手にする事が多いせいもあるのだろう。一般に流通している道具は魔石を使えば誰にでも使える物が多い。
(『事象を錬成』して日常利用しているコンロなどは、錬成物のカテゴリーとしては例外。それから、事象を操る錬成物は高額であることも付け足しておく)
このリュックサックのような『事象を錬成する』錬成物を使うには魔力が必要となる。あ、リュックも魔石を燃料に使っているけど、起動は自身の魔力を使ってる。
工房の森にある守護結界を例にした方が分かりやすいかもしれない。
あれは『錬金術師』が事象を錬成するための『
うーん……。錬成陣によって魔力を留め置き、循環や増幅、変化……をさせているもの、の方がまだ説明として分かりやすいだろうか。
錬金術の中でもこうした術は『魔術』と呼ばれている。魔力を使う術だから……単純だ。
魔法はファンタジーだけど、魔術は錬金術から派生したひとつの学問として成り立っている。王立騎士団、王立魔術師団、王立錬金術研究院と、国の機関として三つが並んでいるくらいだ。
話を戻すと、だから一般的には不思議な事象は『錬金術』ではなく『魔術』として認識されているのだ。
私がこんなに大きくて重そうなリュックを背負っているのは、立派な不思議事象だろうに――。
「さすが騎士さんなんですね。でもこのリュック、私の手作りじゃないんですよ」
錬金術師は『魔術』も操ると知っているのは、あまり一般的ではないのだ。
「あれ? あの工房に一人でいたから、若いけど講師なのかって驚いてたんだけど……やっぱり見習いさんだった?」
「はい、実はまだ見習い修行中です……」
「そうだったんだ。あ、見習い錬金術師さん、よろしければ門までご案内しましょうか」
騎士さんは馬から降りて、私に手を差し出した。
「どうぞ乗って? 今日は開門前から行列ができてるからね。早く行った方がいい」
そのちょっと垂れ目ぎみな目は、微笑むとすごく優しそうで、何だか騎士なんていう厳しい職業の人には見えない。なんだか――こう言うと笑っちゃうけど、お伽話の王子様のような雰囲気なのかも。
待って……この手、どうしよう?
工房に入って三年、成人して二年。恥ずかしながらイグニス以外の『性別:雄』とほとんど話してないから、ちょっと緊張してしまう。
……そしてそんな自分に戸惑う。
「えっと、でも、お仕事中にご迷惑なんじゃ……」
そうだ。それに並んでいる商隊や採狩人たちに、わたしだけ優遇されてるように思われるのはちょっと面倒かもしれない。
「ああ、大丈夫。もう仕事は終わりなんだ」
心配しなくても贔屓なんてしないよ。と言うと、騎士さんはその目立つ上着と帽子を脱ぐ。
「君の工房へ行ったら直帰予定だったんだ。元々が帰還ついでの任務だったしね」
あっ、なんだかすみません。私があんなところに住んでたから余計な仕事がこの人に……!
「君、ギルドに売りに行くんだろう? それなら尚更だ。一気に人が入れば買取も混雑するだろうし、買い物の方も今日は品薄だろうから、急がないと買えなくなるかも。値も上がってるしね」
「えっ」
「ほらほら、話は馬上でしようか。はい、ここに足置いて、はい乗って!」
グイと手を引かれたと思ったら、彼の膝に足を乗せられ、腰を持ち上げられ馬に乗っていた。
なにこれ鮮やかな手際すぎる。
徒歩より早く、四半刻(十五分)ほどで城門前に着いた。のだが。
これはちょっと、騎士さん――レッテリオさんに感謝かもしれない。
行列のほとんどが、閉門により城壁内に入れず近隣で野営を余儀なくされた人たちだ。疲れのせいと、もしかしたら空腹もあるのかもしれない。雰囲気が殺気立っていた。
たぶん、レッテリオさんは分かっていて私を乗せて来たのだろう。一人だったらちょっと怖かったかもしれない。
「……あの、助かりました。ありがとうございます」
「俺も戻るところだったしね。しかしこの分じゃ今日は街の中もすごそうだな」
はぁ〜〜、と。レッテリオさんは軽く溜め息を吐く。
そして、私はピシリと固まった。
――ヒェッ……!? 息が……耳元……!?
いま、私は馬に二人乗りをしていて、リュックは前に抱えていて、馬に乗りなれていない私はレッテリオさんの前に乗せてもらっているわけで――。
チラ、と後ろを見上げてみると、思っていたよりもレッテリオさんの顔が近かった。
「急いで来たけど一刻は掛かるかもしれないね?」
「そっ……です、ね……」
私の視線に気づくと、レッテリオさんはちょっと申し訳なさそうな顔で言った。
私が「街にいつ入れるのか」を不安がっているとでも思ってくれたのだろうか? それも不安だけど、それよりも――。
まずい……顔が熱い……!
私は前を向き俯いて、手の甲を頰にぺちぺちとつけるが熱はなかなか引かなかった。
私の前に並ぶ商人は「約束の時間に間に合うだろうか……」そんな不安を漏らす。きっと彼の心中は穏やかでないだろう。
そして私の心中も……なんだか落ち着きません!?
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