第188話このデートは贅沢すぎます!
大事なのは自分の気持ち。
結婚に拘らず、オリバーとのお出かけを楽しもう!
そう決めていたはずなんだけれど……。
「んじゃ、手始めにこの子に似合いそうな服を、十着くらい持ってきてくれる?」
「え!?」
オリバーとのお出かけ当日。
馬車でお迎えに来られたのもびっくりだったけれど、連れて行かれたのは王都でも有名な一級商店。
なんでもキャロル商会の直営らしく、入店するなり特別対応で別室にご案内。
ふかふかのソファーに腰かけながら紅茶にクッキーと振舞われたかと思うと、圧倒されている間に先ほどのオリバーの一言で、即座に美しいワンピースがずらりと用意された。
まさにVIP対応……っ!
(それに、ワンピースも可愛い系から華やか系、シンプルながら大人っぽいお色気系って色んなバリエーションが網羅されてる……!)
しかもちゃんと私のサイズに合っていそうだし、好みから完全に外れたデザインはないし。
(これぞ匠の技……! 一級商店の実力おそるべし!!)
「ど? 好きなのある?」
「あと! その、どれも素敵ですけれど、服なら充分間に合ってるかなーと」
「いいじゃん、何着あったって。それに、せっかくのデートだし、俺が贈った服を着てほしいんだよね。駄目?」
あー、いけません!
攻略対象キャラのつよつよ顔面で小首傾げのうるうる目は反則! 反則です!!
一介のモブ令嬢な私がこの攻撃をかわして断るなんて……っ!
(って、駄目駄目! なんとしても断って……)
「それにさあ」
オリバーは私の片手を取ると、軽く上げて私の服をまじまじと見下ろし、
「俺とのデートなのに、好きな子が他のヤツに贈られた服を着てるとか、許せないし。けっこう嫉妬深いよ? 俺」
ちゅ、と指先に口づけたオリバーが、パチリとウインクを飛ばしてくる。
(あ……ちょっと無理ですね、これ)
「……じゃあ……一着だけ」
「そ? 全部買ってもいいし、なんならもっと運ばせてもいいけど?」
「一着で!! 今着る一着だけで勘弁してください……っ!」
「ティナは相変わらず謙虚だなー」
ケタケタ笑うオリバーに、今更ながらキャロル商会の跡取り息子なんだと実感する。
(……私って本当、これまでオリバーの一面しか知らなかったんだなあ)
こうして出かける機会がもらえて良かったかも。
「それで? ティナはどれが気に入った?」
「えと、オーリーはどれが好きですか?」
「俺?」
「オーリーが贈ってくれる服ですし、これから着るとなると一番に私を見るのはオーリーですし。せっかくなら、贈って良かったと思ってもらえる服がいいなって」
「……ほーんと、無意識なのがなあ」
「え?」
「なんでもない。ティナは可愛いねってこと」
「はい!?」
なんだかよく分からないけれど、オリバーはご機嫌な様子で服を選び始める。
慣れた風にサーっと並ぶ服に目を通したオリバーは、「ん、これかな」と一着を手に取った。
「着て来てくれる? 気に入らなかったら、変えていいから」
オリバーが選んだのは、淡いピンクの生地でふんわりと仕立てられた可愛らしいワンピース。
それでも装飾がほとんどないからか可愛すぎなくて、抵抗なくすんなり着れた。
「髪も少し変えましょうか?」
着替えを手伝ってくれた女性が提案してくれたので、せっかくならとお願いすると、手早くアレンジをしてくれる。
お化粧も少し直してもらうと、我ながらなかなか可愛らしい、"王都風の"ご令嬢に変身した。
「お待たせしてすみません。……どうですか?」
一級品にプロの手を借りたことも加わって、そう悪くない仕上がりだと思ったのだけれど。
カーテンを開き現れた私に、オリバーはなぜか無言で立ち上がり、歩を進めてくる。
「あの……似合いません、でした?」
「逆。……すっごく可愛くて、びっくりしちゃった」
恭しく差し出された右手に、戸惑いつつも自分の手を乗せる。と、
「こんな可愛いティナを独占できるなんて、本当に幸せ。……いこっか」
私の手の甲に口づけて、オリバーが私の手を自身の腕に導く。
(なんというか……なんというか、オリバーってこんなにキス魔だったっけ?)
いや、確かに思い返せばゲームでもエラの手やら髪やらにちゅっちゅっしていた気がするけど。
自分が実際に受けるとなると、いくら紳士的でもやっぱり恥ずかしい……!
(もうこの時点で"気軽に"なんて言ってられないかも……)
そんな私の予感は、見事に当たり。
「ティナは歌劇に興味ある? いま流行りの演目らしいんだけど、行ってみない?」
(って、たしかこの演目ってなかなかチケットが取れないってミリー様たちが言ってたやつでは!? しかもこの席って一等席のボックス席だよね?!)
「衣装とか小道具とか、うちの商会がけっこう貢献してるからさ。融通が利くんだよね。あ、飽きたら別室で紅茶飲めるから言ってね」
(ここでもVIP対応……!)
ちゃっかり歌劇を堪能したその後は、
「そろそろ食事にいこっか。俺のオススメのお店に連れてっていい?」
(ここって上級貴族でもなかなか予約が難しいって話題のレストランじゃ……!? しかも個室!?)
「ここもうちの商会の"お得意様"でさ。あ、嫌いな物ある? なければコースメニューでお願いしちゃうけど」
(お、王城の料理に負けないくらい美味しい……! って、料理長さんのご挨拶まで!?)
ぜ、全然"気軽に"なんて言ってたら駄目だ。
申し訳ないくらいの贅沢を堪能させてもらっている……!
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