第186話乙女のパジャマパーティーでございます?

「ご機嫌よう、ティナ嬢。エラ様にクラウディア・ティレット嬢も、ご機嫌麗しく」


 生徒の行き交う廊下で、唐突に私の前に立ちはだかったのは、すっかり仲良しなミリーにローザ、マリアンの三人。

 愛用の扇子で口元を覆いながら目を細めるミリーを不思議に思いながらも、挨拶と共に「どうかされましたか?」と尋ねると、


「今晩、わたくしの私室にいらっしゃいな」


「へ? ミリー様のお部屋にですか?」


 すると、ローザが「察しが悪いのね」と呆れたようにして、


「ナイトティーをしましょうってお誘いよ」


 頷いたマリアンが続ける。


「ぜひ、エラ様とクラウディア嬢も、ご都合がよろしければお越しください。ドレスコードはナイトドレスですわ」


(こ、これはつまり……!)


 女子キャラあるあるの、パジャマパーティーってことですね!!



***



(す、すごい……なんて華やかな空間……!!)


 金の色や宝石など、キラキラとした小物で飾られたミリーの部屋に集まるは、存在自体が花めいた麗しい乙女たち。

 エラは私と揃いのレースが美しいナイトドレスを、クレアは深紅のちょっとセクシーなナイトドレスに羽織物を合わせている。


 ミリーは大きなフリルがアクセントとなったデザインで、ローザはシンプルながらも身体のラインが美しく見える仕立てのもの。

 マリアンはふんわりとした軽やかな形で……とそれぞれよく似合っていて、これってもしかして特典グッズの書き下ろしかな? なんて魅了されていると、


「いつまで突っ立ってますの? さっさと座りなさいな」


「は! すみません!」


 だ、大丈夫? お金も払わずにこの輪に加わっていいんですかね!!?

 ミリーに促され、既に座しているエラとクレアの間に移動するも、


「やっぱりティナによく似合っていますね。可愛らしいです」


「一緒にナイトティーが出来るなんて、今夜は良い夢が見れそうですわね」


(見上げてくる二人の破壊力ううううううう!!!!!!!)


「いっそ壁になって堪能したい……っ」


「妙なことをおっしゃってないでお座りなさいな。いつまでもお茶が出せませんわ」


「大変失礼いたしました!!」


 急いで座ると、トレーにポットを乗せて運んできたローザが、


「夜でも相変わらず元気があり余っていますのね。しっかりお話が出来そうで安心しましたわ」


「話って……私の話ですか?」


「もちろんですわ! ティナ嬢、あなたまさか、未だ自分がどんな状況が把握していませんの?」


 すると、クッキーや焼き菓子の乗るトレーを運んできたミリーがふふ、と笑み、


「そうしたティナ嬢の奔放さが、発想の豊かに繋がっているのかもしれないですわね。この"琥珀糖"もティナ嬢の考案なのでしょう? すっかり虜になってしまいましたのよ」


 置かれたトレーに乗っているのは、確かに"mauve rose"の琥珀糖。


「あ、ありがとうございます……! そう言っていただけるなんて、すっごく嬉しいです!」


 元々は平民にも手の取りやすい価格のものを、と考えた"琥珀糖"だったけれど、意外にも安定した売り上げを出しているため、今では定番商品になっている。


(特別売り込みをかけたわけじゃないのに、こんなにも身近で好きになってくれた人がいたなんて) 


 感動に礼を告げた私に、腰を下ろしたミリーがぼそりと呟く。


「やっぱり、アナタは"貴族"に向いていないわね」


「ミリー様?」


 すると、ミリーは「エラ様、クラウディア嬢」とパチンと扇子を閉じ、


「私的なこの場では、無礼な物言いになりますことをどうかお許しくださいませ。……お二人はお気づきでしょうが、少々、厄介な話が耳に届いておりますの」


 とたん、エラは神妙な面持ちで、


「楽に話してください。私たちを信用しこうして招いてくださり、感謝しています」


「私からもお礼を申し上げますわ。けして無駄せず、有効活用すると誓いましょう」


(あ、あれ? パジャマパーティーって、こんな深刻な雰囲気でやるものだったけ??)


 もっとこう、秘密の恋愛話とかでキャーッと盛り上がる感じじゃあ……?


「単刀直入に問いますわ、ティナ嬢」


 ミリーはキッとした瞳を私に向け、


「オリバー様のこと、受け入れるつもりですの?」


「……へっ!?」


 ごくりと喉を鳴らしたのは誰なのか。

 緊迫した空気に、「ど、どどどどうしてミリー様がそれを!?」と目を白黒させると、


「アナタ……あれだけされて、まさか他の生徒がオリバー様の意図に気が付いていないと本気で思っていましたの?」


 呆れた調子のミリーの横で、ローザは信じられないといった風に口元をおさえ、


「あんなにもわかりやすい牽制などありませんわよ!? ティナ嬢に"お誘い"をかけることは、オリバー様と敵対する覚悟を持ったと同義だと公言しているも同然ですのよ!?」


「そ、そんな大げさな……大げさじゃないんですか?」


 恐る恐る尋ねる私に、マリアンが肩をすくめ、


「ティナ嬢はオリバー様と幼馴染とのことですから、見える姿も私達とは違うのでしょうが……それでも、オリバー様は意図的だったと思いますわ。もっとも、"あの"オリバー様が女生徒と遊ばなくなった時点で、周囲は察しているものがありましたし」


(そんな……全然気が付かなかった)


 エラとクレアの顔を見ると、二人は苦笑を返してくる。

 つまり、気が付いてなかったのは私だけってこと。


「私……本当に、考えが浅くて」


「今更落ち込むなど、ただの時間の無駄ですわ。それよりも、今後のアナタの選択が重要ですの」


 紅茶に口を付けたミリーは、ふうと小さく息をついて、


「オリバー様と一緒になるつもりなら、共に国を転々とする生活を選びますの? それとも、アナタだけこの国に残り、夫人としての後援活動を? ……アナタが要である"mauve rose"は、手放しますの?」

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