第184話熱烈な告白に耐性はありません!

「レイナス様!? どうして……ご昼食会のはずでは……っ!?」


「もう終わりました」


「え、終わった!?」


 レイナスは「ええ」とにっこり笑んで、


「昼食をとりながら親睦を深めるには、あまり意味のない面々でしたので。教師の手前、食事はとりましたが、早々に済みました。ですので代表して僕が、ティナ嬢をお迎えに」


 レイナスはすっと右手を私に差し出して、


「お茶の用意をしていただきましたので、行きましょう。特にヴィセルフは、待たせすぎると痺れを切らしてこちらに来てしまうでしょうから」


(わあ、すごく想像がつく)


 腕を組みながら、「まだ来ないのか」とイライラしているヴィセルフの姿が浮かぶ。

「そうですね……」とレイナスの手に己のそれを乗せたところで、「ちょっと、ティナ」と不満気な声。

 同時にぬっと首の横に現れたオリバーの顔に、「オ、オリバー様!?」と声を上げると、


「まだティナは食事中なんだけど」


「ああ、僕が運びますので、ご心配は無用です」


「運ぶ? んなことしないで、ティナはここで食べれば――」


「僕の記憶では、ティナ嬢はあまり目立つことを好みません」


 笑顔ながらぴしゃりとした毅然な声に、オリバーがぴくりと肩を揺らす。

 レイナスは尚も微笑んだまま、


「現状、あまりティナ嬢にとっていい環境とは言い難いように見受けられます。少なくとも僕は、食事くらいゆっくりととってもらいたいと思いますし、そのための環境を用意する手間も厭いません」


「…………」


(こ、この雰囲気はマズい……!)


 私は「オリバー様!」と出来るだけ明るい声を上げ、


「申し訳ありませんが、ヴィセルフ様もお待たせしているようなので行きますね。また今度ご一緒させてください。レイナス様、食事は自分で運びます」


 自分の食事なのだから、自分で運ぶのが当然だし。

 レイナスの手を借りながら慌てて立ち上がると、彼は「いえ」と食事の乗るトレーを手にして、


「これくらいはカッコつけさせてください。……では、また」


 簡素に告げ歩きだしたレイナスを追い、私もまた「失礼します」と会釈してオリバーのもとを離れる。


(ごめん、オリバー。たぶん今は、これが一番正解な気がする……!)


 四方八方から注がれる生徒達の好奇の視線を抜け、廊下を進んで階段を上がると、生徒の姿もすっかり見えなくなった。

 ふ、と息を吐きだしたのは無意識。

 途端、階段の踊り場で、レイナスが立ち止まり、


「まだ、ティナ嬢に謝ることが出来ていませんでした」


「へ? なにを……」


「ティナ嬢に初めてお会いした時、人々の目がある最中で求婚しました。ティナ嬢の気持ちを考えない、自分本意の軽率な行動だったと思います。本当に、申し訳ありませんでした」


「!」


 確かにあの時はすごく驚いたし、周りの目も気になったけれど。

 貴族令嬢としての社交活動なんてろくにせず、王城の侍女としての生活が主体だったから、これといった不便もなかった。

 それに、ゲームでレイナスの性格を知っていたから、その言葉が本気でないことは承知していたし。


「お気になさらないでください、レイナス様。私もすっかり忘れていたくらいですから」


「いえ、僕はよく覚えておきます。……愛しい人は、大切にしたいですから」


「っ!」


(い、愛しい人って……!)


 思わず硬直した私に、レイナスはふと瞳を緩め、


「返事は卒業までにいただけたら、とは言いましたが、僕の告白をなかったものにはしないでくださいね」


「そ、そんなつもりでは……!」


「わかっています。随分と……周囲の雑音が酷くなりましたからね」


 レイナスはぐっと眉間に皺を寄せ、


「あの男が、ティナ嬢にとって切り捨てられない存在なのは理解しています。ですがそれでも、腹立たしくて仕方ありません。……僕ならこんな、ティナ嬢の苦しむ手段など絶対に選ばないのに」


 片手でトレーを支えたレイナスが、空いた手で私の頬にかかった髪を退ける。

 その優しい指と、私を見つめる瞳の強さに、ドキリと胸が高鳴った。


「あ……オリバー様は昔から、ご自分の気持ちに率直な方なので。今回も、悪気があったわけでは……」


「こんな、食事もままならない状況にしたあの男を庇うのですか? 妬けますね。そんなにも"幼馴染"という立場の絆が深いのでしたら、今からでも僕をティナ嬢の"幼馴染"にしていただきたいものです」


「っ、レイナス様は相変わらずご冗談がお好きで――」


「僕は、本気ですよ。ティナ嬢」


 レイナスが私の手を掬い上げ、ちゅ、と軽いキスを落とす。


「ティナ嬢さえ許してくれるのでしたら、あなたを悩ませる全てを排しましょう。その瞳に映るのは綺麗なものだけに、その耳には、美しい調べと僕の愛の言葉だけが届くように。いつだって、夢見ているんです。ティナ嬢が特別な熱を持って僕を見つめ、溢れる愛しさを込めた声で、僕の名を呼んでくれることを」


「――っ」


 こ、こんな熱烈な告白を受けて、赤面しない人がいる?

 いや無理でしょ……!!!!


(か、顔っていうか頭まで熱いし、心臓がドキドキしすぎて息が苦しい……っ!)


 え、わ、私ってもしかして、レイナスのことが好きだったのかな??

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