第175話幼馴染が私を好きな可能性!?

 ご、ごめんオリバー!

 まさかこんなことになってるなんて……っ!


 あれ? でもこれってつまり実質オリバールートを無くしたようなものだから、エラがオリバーに恋する可能性はひじょーに低くなったってことじゃ……。


「ティナ様? そんな熱心に俺の顔を見つめて……惚れました?」


「なわけねーだろ!」


「す、すみません、ちょっと考え事を……!」


「あっはっは! ヴィセルフ様が答えるんすね。いっすよ? 俺の顔で解決出来そうなら、いくらでも眺めていただいて」


「ジーク!」


(ヴィセルフがこうやって楽しそうにやりとりするの、やっぱり珍しいな)


 ゲラゲラ笑うジークとなにやらムキになっているヴィセルフの姿は、王城でも学園でも見たことがない、"大人に振り回される青年"のよう。


(エラのことは勿論だけれど、ヴィセルフからこの関係を奪いたくないな)


「……あの、ジーク様」


「"様"って柄じゃないですよ。気軽に"ジーク"って呼んでください」


「それじゃあ……ジーク。キャロル商会のオリバーという人を、知っていますか?」


 刹那、ジークの眉がぴくりと動いた。

 ヴィセルフは何か言いたげに口を開いたけれど、閉じて様子をうかがっている。

 と、「そうっすねえ」とジークは顎先を撫でて、


「キャロル商会の名は有名でしたからね。賊だった時も何度か"ご挨拶"しようとしたのですが、けっきょく叶わずで。こうしてこの港に居付くようになってからは、よく耳にしますよ。というか、この国で"キャロル商会"の名を知らない船乗りなんていないと思います」


「じゃあ、"オリバー"は……」


「キャロル商会のぼっちゃんですよね? これも有名な話っすよ。けど、会ったことはないですね。いや、もしかしたら港で顔を合わせたこともあるかもしれないですが、俺は"オリバー"様の顔を存じ上げないので。ティナ様はその"オリバー"様とどのようなご関係です?」


「あ、と。幼馴染で、今は学園の先輩に……」


「仲がよろしいのですか?」


「へ? 悪くは、ないと思いますけど……。よく面倒を見てもらっています」


「その方を慕ってらっしゃるのですか?」


「慕っ!? い、いえ、尊敬はしていますし、嫌ってなどいませんけれど、そういった類のものでは……!」


「ですが、オリバー様も"そう"だとは限りませんよね? ティナ様はこんなにも素敵で魅力的なのですから、幼馴染とあれば、そりゃあ恋や愛のひとつやふたつ……」


「そんなこと……っ」


 ん? 待って。

 過った"可能性"にピタリと止まる。


 私は知らずのうちとはいえ、オリバールートを潰してしまった。

 つまり、オリバーとエラの恋愛が発生しないようにしたともとれる。


 入学時から何かと世話を焼いて来るのも、特別な"オリー"の愛称に拘ったのも。

 仲良くなりたいと言って、ゲームでは重要視されていなかった"婚約者候補"の名を、事あるごとに主張するのも。


(もしかして、オリバーは本気で"ティナ"のこと……!?)


 瞬時に顔が熱を帯びるのを感じて、反射的に両頬を手で覆う。


(う、ううん! まだ結論付けるには早すぎる!)


 だって"エラのオリバールート"が無くなったからといって、"オリバーがエラを好きになる"可能性がなくなったわけじゃないし!!


「……ときに、ティナ様。この近くに昔から人気のウェルシュケーキが食べれるカフェがあるんですが、ご興味はありませんかね?」


「え?! あります!」


(っと、今はヴィセルフが一緒だったんだった)


「ええと、お店を教えていただいてもいいですか? 後日改めて……」


「いえ、ティナ様さえよければ今お連れしますよ。といっても、俺はヴィセルフ様と大事なお話があるので、不幸ながらご一緒出来ませんが。信頼ある部下に任せますが、むさ苦しいのはお許しいただけますか」


 ん? ということは、ヴィセルフもジークさんとお話するってことだよね?

 確認するようにしてヴィセルフの顔を見遣ると、ヴィセルフは少しだけ不服そうにしながら、


「逃げられねえようにって黙って連れてきちまったからな。休んでこい」


「はい! ありがとうございます、ヴィセルフ様。ジーク様、お願いしてもよろしいでしょうか?」


(やったー! 食べにいける!)


 地元で長く愛される味って、すっごく貴重だし!

 次の新作スイーツ開発の参考にさせてもらお!


 そうして私はジークの長年の部下という、筋肉たっぷりのお兄様二名に連れられ。

 少々古びた外観のカフェで、意外にもスイーツ談議に花を咲かせながら、ほっこり優しいお味のウェルシュケーキと紅茶を堪能させていただいた。

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