第161話ルート確定演出じゃないですよね?
「"還れない"、存在……?」
唖然とする私達の視線の先には、苦悩に頭を抱える少女。
「私は、私は、この花が必要で……どうして。私の、はじまりの、"名前"は」
その時だった。
「ティナ!」
「! エラ様!」
駆けて来たエラはためらうことなく両膝を地につき、私を抱きしめ「良かった、良かったです」と繰り返す。
「無事だと、信じていました。それでも不安で、不安で……っ! 怪我はありませんか? 痛むところや不便の生じている箇所は――」
顔を上げたエラの瞳から、ほろほろと涙が零れ落ちる。
私は「ご心配をおかけして申し訳ありません、エラ様」とその涙を指先で拭って、
「この通り、怪我もなく無事です。ちょっと魔力が不足してしまいましたが、レイナス様に助けていただきました。心配ありません」
「魔力が……っ! わかりました。本日からしばらくは、わたくしがティナの身の回りの世話をいたします」
「え!? いえ、もう少し休めば平気で――」
「いけません。魔力の欠乏による反動で、身体は想像以上に疲弊しているのです。しっかりと回復するまで、養生しなければ。特にティナはすぐに無理をしますから。心配ありません。わたくしが責任と誠意を持って、しっかり支えます」
(あ、あれ? エラ、もしかして本当は怒ってたりする……?)
わたしの両手を掴みにっこりと微笑むエラから漂う圧に、ついつい怯む。
と、ヴィセルフが「おい! 何を勝手に決めてやがる!」と声を荒げたかと思うと、ダンが「そうだなあ」と笑みながら、
「手伝いなら、王城から侍女を派遣するほうがティナも安心するんじゃないか? 学友とはいえエラ嬢に世話されるとなっちゃあ、ティナも恐縮して休まらないだろ」
「そうでしょうか。事情の知らない者に任せるより、ティナをよく知るわたくしの方がティナに寄り添ったお手伝いが可能かと」
今度はレイナスが「ああ、そうでした」と思い出したようにして、
「ティナ嬢。日に一度は魔力の状態を確認したいので、僕との時間を設けてくださいね」
「あ!? レイナスてめ、ここぞとばかりに……っ! 魔力状態は王城の医師を学園に常駐させっから、テメエの確認など必要ねえ!」
「おや、勉強が足りませんね、ヴィセルフ。今この時、ティナ嬢の身体に流れているのは、僕の魔力です。いきなりすべてを置き換えるよりも、しばらくは僕の魔力と混ぜ徐々にティナ嬢の魔力に戻していったほうが、後々の負担にならないのですよ」
(へえ、そうだったんだ)
でも確かに、息苦しさも消えて身体に力が入るようになってきたけれど、なんというか、いまいち"噛み合っていない"ような感じはある。
とはいえ日常生活を送るに支障がない程度まで回復できるのだったら、基本的には自分でなんとかできるんじゃあ……。
「って、あれ? エラ様、肩の付近になにか……?」
ふわりと横切ったソレに、蝶でも寄ってきているのかと思いきや。
うっすら光を帯びた顔が、じっと私を見つめる。
「え、ええ!? せ、精霊……!?」
間違いない。ゲームで見たのと一緒だ……!
(え? まってこの精霊、エラとすでに仲良しだったり??)
警戒心の強い妖精が、声を上げた私から隠れるようにしてエラの背に隠れた姿に、絶句してしまう。
ショックだったからじゃない。
私の記憶が確かならば、"エラと精霊が仲良くなる"のは、ニークルルートで発生するルート確定演出のひとつだから。
(えっ、うそ。これまでエラとニークルって接点すらなかったはずなのに、私が手こずってるうちに一気に好感度が上がっちゃったの?)
ううん、まさかこれまで関わりがなかった反動で、一目惚れだったり――!?
「ティナ」
ニークルの呆れたような呼びかけに、泣きそうな心地で顔を向けると、
「早急に必要な名を得るため、扱える者に使わせただけだ」
そう言ってニークルが右手を精霊に伸ばすと、エラから飛び立った精霊がすいとニークルの元に移動する。
エラはそんな私に、「こちらについては、また後程ゆっくりとお話させてください」と苦笑した。
それから真剣な、恋慕とは異なる緊張感と冷静さを持った眼差しでニークルを見遣り、
「ご指示の通り、過去同時期に行方知れずとなった女生徒二名の名を発見しました」
ニークルはゆっくりと、眼前の未だ取り乱す少女へと視線を移す。
「……名は」
エラは小さく息を吸い込むと、
「コレット・ロザンジュと、リア・ビスタールにございます」
「――リア」
呟いたのは、少女だった。ピタリと動きをとめ、「リア」と再び呟く。
それから手にしたスノードロップを見つめると、「そう、リア」と愛おし気に瞳を緩めた。次の瞬間。
「リア。約束、守ってね」
ふいと浮遊し、わき目もふらずに飛び立つ少女。
「! 追うぞ!」
ヴィセルフの声に立ち上がろうとした刹那、ぐいと力強い腕に抱きかかえられた。
「ヴィセルフ様!?」
お姫様抱っこな状態に声を上げると、ヴィセルフは「走るから口閉じとけ!」と前を見つめたまま駆け出す。
いや、ヴィセルフだって魔力状態ギリギリでつらいのでは、とか、エラの目の前だしもっと言い訳しておいたほうがよくない!? と思うのだけれど。
たしかにこの振動では、口を開いたら舌を噛んでしまいそう。
まだうまく力の入らない身体ではバランスをとるのも難しくて、とにかく今は落ちないようにと、ヴィセルフの首元にしっかりとしがみ付いた。
(ごめん、エラ! ちゃんと弁解は後でするからね!!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます