第145話取り巻き令嬢と幼馴染の誤解
「ホント、まさかあの三人と仲良くなれるなんて」
ゲーム開始となる入学までの約一年間、ひとまず当たってみなくちゃわからない精神で、必死にヴィセルフとエラの仲を取り持っていたけれど。
それも無駄じゃなかったんだ、と改めて感じたのは、入学後に三人の名前を知った時。
途端に甦ったゲームの記憶。その中では、あの三人はヒロインであるエラと対峙する悪役令嬢クラウディアことクレアの、取り巻き令嬢だった。
(エラへの嫌がらせ行為はもちろん、婚約破棄イベントでエラの不貞疑惑の証人になってたり……なにかとキーマンなポディションだったんだよねえ)
けれども今の三人は、私と同じく『ヴィセルフとエラの幸せな結婚を推しすすめ隊』の同志で、エラへの嫌がらせどころかクレアと交流を深める様子もない。
どこか先ほどのミリーは、私にクレアを警戒するよう助言までしてくれた。
(これも、ヴィセルフとエラの関係性が変わったことによる変化なのかな……)
なら、努力すればちゃんとゲームの強制力に打ち勝つことが出来るって証明に――。
「ティーナ」
「!? オリバー様!?」
木の影から踏み出してきたオリバーが、ひらひらと手を振って私に近づいてくる。
「だから、オーリーでいいって言ってんのに」
オリバーも寮暮らしではあるけれど、私と同様に制服ではなくラフな服装をしている。
(学園自体に用事があったわけではないってことかな?)
「どうされたんですか? こんな所で」
オリバーは「あーとね」と少々気まずそうに頬を掻いて、
「ティナを探してた」
「私を?」
「そ。で、遠巻きに見つけたはいいんだけど、なーんか用事がありそうだったからさ。タイミング伺ってたら女の子達が来たもんだから、もしかしてって思って隠れて見てたんだよね。けど、俺の勘違いだった。覗き見しちゃってゴメンね」
(ミリー達と険悪な場面になるのかもって、見守ってくれてたんだ)
ゲームのオリバールートで、オリバーが「婚約予定の子のことは妹みたいに思ってるんだ」とエラに告げるシーンがある。
実際、"ティナ"の記憶でも彼はよく気にかけてくれていたし、生徒会での甲斐甲斐しさからも察するに、お兄ちゃん気分で心配してくれたのだろう。
「ありがとうございます、オリバー様」
怒ってなどいないと伝わるよう笑んだ私に、オリバーは面食らったようにしたあと、「こちらこそ、ありがとね」と苦笑する。
それから「あのさあ、ティナ」と少し声色を真面目なものに変え、
「頑なに俺を"オーリー"と呼んでくれないのって、まだ、デビュタントの時のこと怒ってるから?」
「へ?」
「そりゃあ、元々べったりな関係ってわけじゃなかったけどさ。久しぶりの再会だってのに、あからさまに距離を取ろうとしてるし……。俺は、本気でティナと仲良くしたいのに」
(あ、あれ?)
「そうだよね。一生に一度のさ、それも女の子にとっては大事な大事なデビュタントだったわけじゃん? いくら嵐に巻き込まれて船が遅れたっていっても、エスコートの約束を破ったことには違いないわけだし。貰った手紙で"気にしてない"ってあったからって、俺も鵜呑みにしすぎた」
「あの、それは――っ!」
瞬間、息を呑んだのは、向かい合ったオリバーが私の両手を掴んだから。
けれど触れているのは指先だけ。まるでいつでも私が振りほどけるようにしているかのように、ほとんど力は込められていない。
「ごめんね、ティナ」
なんだか叱られたワンちゃんみたい。
伏せた耳と尻尾が見えたような気がして、私はこっそり噴き出す。
「本当に、怒ってませんよ。……"オーリー"」
「!」
バッと顔を上げた彼の瞳が、きらきらと嬉し気に光る。
それから一気に破顔して、
「やあーっと呼んでくれた。許してくれんの? ティナ」
「ですから、許すも何も、そもそもがオーリーの誤解です」
「誤解?」
地方出身の"ティナ"が王都でのデビュタントを叶えられたのは、ティナが心の中では王都のパーティーに憧れていると気づいたオリバーが彼のお父様に頼み、その人脈を使って招待状を手配してくれたから。
「わ、私には無理です! 王都でデビュタントなんて……っ!」
そう拒否したティナに、オリバーは「だいじょーぶ」と招待状を握らせ、
「俺がちゃーんとエスコートしてあげっから。この日までに、ダンスくらいは踊れるようになっててよ?」
……夜会慣れしているオリバーが、一緒なら。
ティナはそう自分を納得させ、不安よりも憧れを取った。
だけれど約束のデビュタントが近づいたある日、オリバーと彼の父から手紙が届く。
嵐に巻き込まれ船が損傷し、近くの国で修理をしてから出立となるため、約束の夜会には間に合いそうにない。
本当にすまない、と綴られた彼の父親からの手紙とは別に、オリバーからも謝罪の事が書き添えられていた。
『約束したのに、ごめんね。夜会には、また今度一緒に行こう』
また今度。その単語に、ティナは決意を固めた。
「お父様。私、一人で王都に向かいます」
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