第143話校舎裏にお呼び出しでございます

 生徒もまばらな休日の校舎。

 ただでさえ人の少ないそこの更に裏手となれば、誰かと遭遇する確率はほとんどゼロに近くなるわけで。


 校舎の影に紛れながら立つ私の眼前には、三人のご令嬢。

 そう、なんせここは乙女ゲームの世界。

 人気のない校舎裏に、相対する複数のご令嬢ときたら、導かれるのは当然お決まりの"アレ"なワケで……!


「この度はほんっとうにありがとうございました!」


 感謝を込めて頭を下げた私は、「これ、お約束の品です」と持参した布袋から三つの包みを順に取り出し、ポンポンポンッと三人に渡していく。


 そう。なんとも乙女ゲームのお約束、ヒロインの呼び出しに酷似したシチュエーションなのだけれども、今回この三人を呼び出したのは私なわけでして。

 用件は、先日の生徒会入りを賭けた『ひっそりこっそり懐に入り込んで手放せなくなってしまおう作戦』の協力に対するお礼だ。


 濃紺の髪をすっきりとまとめたスレンダーなご令嬢、ローザが包みを開いて、嬉し気な声をあげる。


「本当にいただけるのね! 素敵、本当にカップの外がピンクだわ」


「間もなく販売予定の新色なんです。せっかくなら、こちらをと思いまして」


 続いて柔らかそうなブラウン髪とそばかすがキュートなマリアンが、「本当に嬉しいですわ」と微笑む。


「フォーチュンテリングカップはまだまだ手に入れるに時間がかかっているというのに、新色までいただけるなんて。それに、こちらの桜のロールケーキなんて、あっという間に売り切れてしまったと聞きましたもの。ねえ、ミリー様」


 ミリー、と呼ばれたご令嬢は、オレンジ色の縦ロール髪と黄緑の瞳がなんとも特徴的。

 加えていわゆる三人の中心たる存在なだけあって、雰囲気がある。

 ご愛用の扇子で口元を隠し、「ええ、本当に」と両目を細めると、


「正直なところ半信半疑でしたが、本当に、アナタが"mauve rose"の考案者ですのね」


「えへへ、そうなんです」


 時は遡り、私がヴィセルフやエラ達に今回の作戦を伝えた温室での出来事。


「仕掛ける段階で協力してくれそうな生徒も、何人か見繕っておいたほうが良いだろうな」


 ダンのこの言葉から、フォーチュンテリングカップを学園内で流行らせるために、エラやレイナスとは別にお茶会を開いてくれる協力者を探すことにした。


 条件は口が堅く、かつ、私の生徒会入りに好意的な女子生徒。

 とはいえ学園内の知り合いなんて、生徒会入りが決まっている皆を除けば、クレアくらいなもので……。


「…………あ」


 いた。うってつけのご令嬢がいた……っ!!

 そうしてこっそり接触を図ったのが、こちらのローザ、マリアン、ミリーの三人。

 何を隠そう、彼女たちは王城の園庭で開催されたお茶会で出会った、ヴィセルフとエラの幸せな結婚を望む同士……!!!!


 三人は私の呼び出しにどこか居心地悪そうにしていたけれど、カップの計画を説明し、私の生徒会入りはヴィセルフとエラの仲をより深めるためにも必要なのだと必死に訴えると、


「まあ……ヴィセルフ様とエラ様もお望みとのことですし、最初はエラ様とレイナス様とのお茶会にご招待くださるのですのよね? でしたら……」


 そう言って、快く了承してくれた。

 そうしてフォーチュンテリングカップが完成するや否や、エラとレイナスのお茶会に招待。

 この時、三人には出来る限り周囲に自慢してもらった。生徒たちの関心を引くためだ。


 満を持して開催されたお茶会は、野次馬……もとい、気になって気になってしょうがない生徒が覗き見れるよう、例のガラス張りの温室で。


 計画通り、さりげなさを装って盗み見る生徒たちの前で、エラとレイナスがフォーチュンテリングカップをお披露目!

 ローザ、マリアン、ミリーの三人に使い方をレクチャーし、紅茶占いを皆でたっぷり楽しんだ後、三人にカップをプレゼントしたのだ。


「これから同じ学び舎で切磋琢磨する学友といたしまして、他の方との交流を手助けするきっかけになれますと嬉しく存じます。ぜひ、お持ちになってください」


「こちら、我がカグラニアでも生産を始めたばかりでして、ラッセルフォードへの販路はまだ僕だけなのです。もし今後ご入り用の方と出会われた際には、ぜひ僕にお声がけをとお伝え願えますか?」


 エラの華麗なる微笑みシャララーン!!

 レイナスの妖艶王子スマイルきらきらー!!


 三人およびもはや隠れる気のないギャラリーの心をがっちり掴んだ後は、エラとレイナス、そして三人にフォーチュンテリングカップを使ったお茶会の開催を頑張ってもらい。

 こうしてなんとか、短期間でカップの流行を作ったのだ。


 三人にはその時に、協力の報酬として後日新しいフォーチュンテリングカップをもう一組と、投票当日にお披露目予定の"特別なスイーツ"のプレゼントを約束していたのだけれど。

 フォーチュンテリングカップが大流行してくれたおかげで、バリエーション違いの生産も始めることになり。


 せっかくなので、この新作である色付きフォーチュンテリングカップが仕上がるまで待ってもらい、本日やっとプレゼントの目途が立ったというわけである。

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