第123話全生徒の投票イベントなんて知りません!

(こ、これは……!)


 ねええええ!!

 エラとヴィセルフ、めちゃくちゃ息ぴったりじゃない!!?


(え? ヴィセルフいまエラの意見を肯定したよね。しかも全力で助太刀しているよね!?)


 これはもう両想いすっとばして、完全意思疎通な唯一無二のパートナー……そう!

 最強に以心伝心で運命的な婚約者といっても過言ではないのでは!!?


「ティナ? おま、この状況でなにをにやけて――いや、なんでもねえ。ろくでもない予感がする」


「ろくでもないだなんて、ヴィセルフ様にとっても喜ばしいことですよ?」


 はて、と小首を傾げた私に、ヴィセルフが「ったく、やっぱりろくでもねえ」と呆れたように息をつく。


「あのな、他の誰でもなくティナの話しをしてんだぞ。わかってんのか? ここでアイツにしっかり釘を刺しておかねえと、後々いいように利用されるのはティナなんだぞ」


「あーと、はい、もちろん、ちゃーんとわかって……」


「ティナ、心配はいりません。わたくしがきちんと話し合い、解決してみせます。ですのでこのお話が終わりましたら、わたくしのお部屋で紅茶を淹れなおしませんか?」


「お邪魔してしまってよろしいのですか? でしたらエラ様、お紅茶は私にお任せを――」


「……どうして」


 ポツリと聞こえた声に、反射的にテオドールを見遣った。

 瞬間、見てしまった。

 寂し気、というよりは絶望に近い。置いて行かれた子供のような驚愕と悲壮感に覆われた、彼の目を。


 けれど私が瞬いたほんの一瞬に、彼の哀愁はすっかり息を潜めてしまった。

 良く知る冷静沈着なテオドールの顔で、彼はやれやれと首を振る。


「僕がまるで慈悲のない悪漢かのようにおっしゃいますが、理由は至って単純なものですよ」


 テオドールは「まず一つ目に」と落ち着いた声色で、


「色々とありまして、現在の生徒会は僕とオリバーしかいません。人手が足りないのです。とはいえ誰でも良いという話でもありません。欲しいのは、正常に業務をまっとう出来る生徒。煩わしい社交の場を持ち込まない人物です」


(ああー……そういえば、今の生徒会って訳ありなんだった)


 通例では、生徒会には学年ごとに、四名が選出される。

 ところがテオドールとオリバーが入学し、生徒会に所属すると状況が一変。

 テオドールの他者を圧倒する天才的な知能と小生意気な性格とが災いし、上級生との関係が悪化してしまう。


 さらには大商会の跡取りとはいえ、平民であるオリバーの生徒会入りを良く思わない生徒とも衝突。上級生たちは生徒会を辞してしまうのだ。

 悲劇はそれだけにとどまらず。

 同級生だった二名も、テオドールとオリバーに取り入ろうとして……。


『あなた達の仕事は僕やオリバーに媚びを売り、小さな社交界を築くなどという愚行ではないはずですが』


 テオドールにズバッと斬り捨てられ、同級生二名も辞任。


(この背景を知っていると、テオドールの言葉も納得だよね)


 私の納得などつゆ知らず、眼前のテオドールは「続いて二つ目ですが」と言葉を続け、


「彼女の処遇に関して、姉様や皆様の懸念はもっともです。僕とて考えなかったわけではありません。ですので彼女の生徒会入りの是非については、簡単な課題に挑んでもらい、その結果に基づき全生徒に投票させてはいかがですか」


「全生徒の、投票……?」


(なに、それ。ゲームでそんなイベント見たことないんだけど……!)


「させるかよ」


 低い声はヴィセルフのもの。

 明らかな憤怒をまとわせ、


「ティナを餌に俺達を釣ろうとした挙句、晒しものにするだ? よくもそんな愚策を提案できたな」


「あんまりです、テオ」


「ティナ、考える時間もあげられずに悪いが、俺も同意はできないな」


「ふふ、現生徒会長はなんとも悪趣味なようですね」


 私を守る様にして立つ四人。

 その緊張感とは対照的に、オリバーが「えー? ティナ、生徒会こねえのー?」とつまらなそうに言う。

 テオドールは変わらぬ表情のまま「悪い話ではないはずですが」と私をちらりと見て、


「経緯が経緯なだけに、彼女はすでに他生徒の興味の的です。さらにはこうして姉様たちと行動を共にしていては、遅かれ早かれ、皆様の予測している最悪の事態は確実に起きるでしょう。ならば初めに、こちらから牽制しておくのも手では? 他生徒にその能力を示し、堂々と生徒会に属すれば、簡単に手出しは出来なくなります。彼女を傷つけるということは、生徒会に歯向かうも同然になりますから」


(たしかに、一理あるかも)


 これまでは侍女という肩書きがあったから、王族だったり上級も上級貴族なヴィセルフやエラ、ダンやレイナスと一緒にいてもそこまで目立つことはなかったけれど。

 隙あらばお近づきになりたい生徒で溢れている学園生活では、私の存在は嫉妬の対象でしかないはずだ。


(それに、ヴィセルフとエラだってお互い帰宅部でいるより、ゲームみたいに生徒会に入ったほうが交流を深めるチャンスも多いだろうし)

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