第122話生徒会長の思惑は
(もしかして、このまま生徒会に入らなかったら、エラがテオドールやオリバーに恋心を抱く可能性も低くなるんじゃ……?)
はからずとも、二人分の攻略対象キャラの脅威がなくなる。
そういった意味では、結果オーライ……なのかも。
(で、でもでも、クラウン学園の生徒会に入っていたってだけで、社交界での評価も上がるんじゃなかったっけ)
――わかってる。
ヴィセルフとエラの恋愛成就には、国の未来がかかっているのだもの。
ここは「わあ、嬉しい!」とか喜んだフリでもして、少しでも不安要素を取り除いておくべきなのだろう。
それに、四人には既に地位も権力もある。
たかが「クラウン学園生徒会」の一文字が消えたところで、痛くも痒くもないはずだ。
(わかってる、けど……っ!)
「そ、そんなのダメです!」
叫んだ私に、視線が集まる。
ひるみそうな自身を鼓舞しようと、両手をぎゅっと握りしめ、
「生徒会への入会資格を得たのは、なにより皆さんの努力が評価されたってことじゃないですか! 家柄だけでは選ばれないのだと、私ですら知っています。それに、皆さんがけして自分の立場に甘えず、努力を積み重ねているってことも。なのに……私のせいで諦めるなんて、絶対に、駄目です……!」
「ちが……っ! ティナの"せい"じゃねえ、ティナがいないから意味がねえって言ってんだ!」
「ヴィセルフ様。私が手のかかる友人だからと気にかけてくださるのは、とても嬉しいです。ですがなにも友人というだけで、四六時中つきっきりで面倒を見る必要はありません。エラ様、ダン様、レイナス様も同じです」
「ティナ……! わたくしは面倒を見るなどと驕った考えはありません。ただ……ずっと待ち望んでいた、侍女ではない"ティナ"と過ごす貴重な機会ですから。可能な限り、二人の思い出で埋めていけたらと願っているのです」
ええーーーーエラほんっとにいい子! 知ってたけど!!
感動に瞳をうるうるさせてしまった私に、エラはにこりと笑んで両手をそっと握ってくれる。と、
「……本気なのですね、姉様」
ぼそりと呟いたのはテオドール。
深いため息をついた彼は「わかりました」と顔を上げ、敵意のこもった鋭い視線で私を見た。
「ティナ・ハローズ」
「は、はいっ!」
(うわっ、こわ!!)
さすがは溺愛するエラ以外には吹雪のごとく冷たいテオドール……っ!!
ファンには胸キュンポイントだったけれど、実際に関わるとほんっと怖い!!
「生徒会会長の権限をもって、生徒会入りを許可しよう」
「はい? ……はいいいいいい!!?」
「やったあー! これでオレともっと一緒にいれるね、ティナ」
ひょこひょこと駆け寄ってきたオリバーが、両手を広げてハグの体制をととる。けど。
「腑に落ちねえな。いったい何を企んでやがる、テオドール」
「! ヴィセルフ様……っ」
ぐいと私の肩を引き寄せたヴィセルフに、よろけた身体を支えてもらって、その顔を見上げる。硬い表情。
刹那、ダンとレイナスがヴィセルフと私を背に隠すようにして、オリバーとの間にすっと身体を割り込ませてきた。
(な、なんか空気がピリピリしてるような……!?)
「ふうん」
驚き眼でパチパチと瞬いていたオリバーが、愉し気に口角を吊り上げる。
「王城で仲良しな"お友達"が出来たみたいで、良かったねえ、ティナ。ずっと友達がいないって寂しがってたもんね」
「そっか、ティナはオリバー殿と一緒の時は、随分と退屈してたんだな。俺と一緒だといつだって楽しそうに笑ってくれてるもんな」
「寂しいだなんて、僕と共に過ごす時間では聞いたことがありませんね。まあ、僕はけして彼女に寂しい思いなどさせませんから、当然ですね」
「テオドール」
澄んだ声はエラのもの。呼ぶ音は硬い緊張をまとっていて、どこか氷のような冷たさまで感じる。
エラは静かな足取りで私の隣に並ぶと、
「わたくしは、反対です」
「!?」
予想外の言葉に彼女を見遣ると、気づいたエラはふっと柔い笑みを向けてくれた。
うん、麗しい。癒し。
ガラス越しに差し込む陽光が、まるでエラを祝福の光で包んでいるようで――ってそうじゃない。
エラは再びテオドールに厳しい表情を向けると、
「生徒会入りの条件が全生徒に周知されているなかで、ティナという例外が現れたなら即座に好奇の目に晒されます。生徒会という存在は生徒たちの憧れの対象となっているのですから、その中には確実に、悪意あるものも含まれるでしょう。ティナの身を危険にさらす可能性がある以上、賛同はできません」
と、今度はヴィセルフが口を開き、
「そういうことだ。だいたい、昔っから規律規律と頭のかったいお前が、俺達の生徒会入りのために折れるだと? あり得ねえ。そこまでして俺たちを引き入れたい理由はなんだ。なにを企んでやがる」
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