第121話生徒会に入らないのですか!?
「そ……れは」
「そうですよ、ティナ嬢」
ヴィセルフの肩を引いたレイナスが、ずいと自身も顔を出し、
「楽しい学園生活はこれからですし、上級生である彼は一年もすればいなくなります。接する時間は同級生の僕の方が多いですし、隣国とはいえ王族の一人である僕との婚姻でしたら、ご両親も納得いただけると思いますよ」
「いえいえ、隣国などに連れていかれては、ご両親もティナも寂しい思いをすることになるのでは?」
割り入ってきたダンが爽やかに笑って胸を張る。
「その点、護衛騎士の俺なら融通が利くしな。以前も言ったけれど、ティナが望むのなら仕事だってしてもらって構わないし、なにより……俺だって、優しいだろ?」
今度はエラが「ティナ」と切なげに瞳を伏せ、
「同じ女である身として、ティナの葛藤はよく分かります。ですが婚姻にこだわらずとも、ご両親に認めて頂けるだけの関係性があれば、別の道も開けてくるのではないでしょうか。手助けさせてください、ティナ。わたくしを頼ってください」
「レイナス様、ダン様、エラ様……っ! ありがとうございます」
(皆、私を励まそうと……!)
そうだ。
私の――"ティナ"の世界も変わった。
地位も権力も、お金も人望もあるのに、優しくしてくれる人がこんなにもいるんだもの。
貴族の子息令嬢が集まるこの学園生活の中で、一人くらい、私に恋して大好きだって言ってくれる人がいるかもしれない……!
「私、頑張ります! 十八歳といっても卒業までは待ってくれると思うので、それまでに私をだ、大好きだっていってくれる恋人を、探してみせます!」
高々と宣言した私に、なぜか場の空気が固まる。
(あ、あれ? やっぱり高望みしすぎた……?)
はあ、と。
項垂れながら着席したヴィセルフが、疲れたようにして口を開く。
「ほんっとにお前は……。どうしてそう鈍感なんだ」
ダンも呆れたように肩をすくめ、
「まあ、ティナが恋人探しに積極的になっただけ良かったんじゃないか?」
「ふふ、僕はそんなところも愛らしく思いますよ」
「安心してください、ティナ。ティナにとって最良の結果となるよう、わたくしがお側で守ります」
(ええと、よくわからないけれど高望みだって呆れらえているわけじゃなさそう……?)
ほっと安堵の息をついた、次の瞬間。
「やっと見つけましたよ、姉様」
「ティナも一緒じゃん。入学式おつかれー」
温室に現れたテオドールとオリバーに、和やかだった場の空気ががらりと変わる。
「テオドール、どうかしたのですか?」
困惑気味に尋ねるエラに、テオドールは少し寂し気な瞳を伏せ、
「問いただしに、参りました。ヴィセルフ様、ダン様、レイナス様にも、同様に」
「ほお?」
ニヤリと口角を上げ、足を組んだヴィセルフが瞳を剣呑に細める。
「俺サマを、問いただす?」
通常の生徒ならば震えあがるだろう気配にも、テオドールは微塵の動揺も見せずに、
「なぜ、生徒会入りを断られたのですか」
「ええ!?」
思わず声をあげてしまったのは私。
皆の視線をうけ、しまったと両手で口を塞ぐも時すでに遅し。
「んな驚くことか?」
「だって、生徒会入りを断ったって……っ!」
(ゲームだと皆、生徒会に入ってたのに……!)
クラウン学園における生徒会は、希望すれば入れるものではない。
入学前試験の結果と家柄などを考慮し、上位の生徒にお声がかかるシステムだ。
ゲームでは当然のごとく、エラはもちろん、ヴィセルフやダン、レイナスも生徒会に所属していたはずなのだけれど。
(それを断ったって、なんで……!?)
「だ、だって、クラウン学園の生徒会といえば、全生徒の憧れの対象ではありませんか……! 断る理由が見当たりません!」
「ティナがいないだろうが」
「……はい?」
ヴィセルフはなにを当然のことをといった風にして、
「ティナには生徒会入りの話は来てねえんだろ」
「それは……はい。自分でいうのもなんですが、入るに相応しい条件を所持していませんし」
「だからだ。ただでさえ時間がねえってのに、貴重な時間を生徒会なんぞに費やしてたまるか」
「ええ……」
え? 私がいないから断ったって、どういうこと?
助けるを求めるようにしてエラやダン、レイナスに視線を遣る。
けれども三人の顔に揃って浮かぶ苦笑に、私は察した。
「え……もしかして、三人も……?」
三人が、同意するようにして頷く。
え? ちょっとまってまって、理解が追い付かないんだが???
私がいないから、生徒会入りを断った??
それも、全員が。
(もしかして、貴族社会に不慣れな私を心配して……?)
すでに入学前から散々迷惑をかけている私に、「あ、これはちゃんと面倒見てあげないとダメなやつだ」って四人の庇護欲を刺激しちゃったとか?
ついでにこの機会に私を少しでも貴族らしく教育しようとか、そういう意味での"時間がない"だったりする??
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