第二章 学園編
第114話再会の春でございます
凍てつく寒さが和らぎ、雪が解け、花々の芽吹く春。
私、ティナ・ハローズは上品かつ仕立てのいい制服に身を包み、前世のゲーム画面で何度も見た王都クラウン学園を見上げていた。
(まさか、私も学園に通えることになるなんてなあ)
本来は魔力を一定以上有する生徒――この国では必然的に、貴族の子息令嬢ばかりとなるのだけれど。
かといって貴族だからという理由だけでは入学を認められない、この国における最高峰の学園だ。
しょぼい魔力しか有さず、そのなけなしの魔力で出来ることといったら花を咲かせるだけな私には、絶対的に縁のない場所。
だったのに。
「たんなるモブ令嬢なのに、恵まれてるよなあ」
前世の記憶を取り戻してから、王城の侍女として関わってきたゲームヒロインのエラ。攻略対象キャラである従者騎士のダンや、隣国の王子であるレイナス。
前世で飼っていたコーギーのくーちゃんもとい、精霊王のニークル。
そして、エラに婚約破棄を突き付け、破滅エンドを迎える運命である"当て馬王子"のヴィセルフ。
他にも、同室として面倒を見てくれていたクレアや、学園への推薦状を書いてくれた上司のマランダ様。
"mauve rose"の商品展開を担ってくれている料理長や料理人の皆と、とにかく、数え切れない人達が私をここに連れて来てくれた。
大切な皆のためにも、この国の破滅は私が防いでみせる。
ヴィセルフによるエラの婚約破棄イベントが発生するのは、二年後の卒業パーティー。
つまるところ、この幸運にも与えられたボーナスタイムをフル活用して、ヴィセルフとエラを両想いでラブラブな恋人同士にすれば破滅回避……!
(絶対に二人を幸せな結婚に導いてみせる!)
えいえいおー! と拳を青空に向かって突き上げた刹那、
「……なかなか来ねえと思ったら、こんな門前でなにこっぱずかしいことやってんだ」
「! ヴィセルフ様!」
校舎に向かう生徒が自然と明けた道を堂々と歩いてくるのは、記憶にあるゲームと同じ制服をまとった呆れ顔のヴィセルフ。
その横で同じようにして歩を進めて来るダンが、「久しぶりだな、ティナ」と爽やかに笑んでくれた。
二人に会うのは、一か月ぶりといったところだろうか。
その間、私は突然の入学許可に混乱気味の両親と共に準備に追われていたため、あっという間に過ぎた感覚だったけれど。
王城の侍女として働いていた間は毎日顔を会わせていたからか、こうして再会すると懐かしい心地が沸いて来る。
「お久しぶりです、ヴィセルフ様、ダン様。またこうしてお会いできて嬉しいです!」
「っ、当然だろ。やっとティナも俺サマの存在の大きさに気づいて――」
「ヴィセルフ様、私がいなかった間もきちんとお目覚めになられていましたか? もちろん、講義をサボったりなんてされていませんよね? ご飯も素直に食べてくださっていましたか? 料理長、私がいない間は"mauve rose"の商品展開をお一人で担ってくださっていたんですから、労わってあげてください」
「…………」
この一か月の間に気がかりだったことをまくし立てると、ヴィセルフはすっと半目になってしまった。怒っているというより、無気力といった方が近い。
いくら"親しい友人"の座を許されたとはいえ、さすがに無礼だっただろうか。
ヴィセルフの無言と共に湧き上がってくる焦りに口を開こうとしたその時、ぶっと噴き出した音がした。
ダンだ。片手でお腹を支えて可笑しげにくっくと笑っている。
「たしかに、ティナにとってヴィセルフの存在は大きいみたいだな」
「ダン……今すぐ笑うのを止めやがれ。それとも今後一切笑えなくしてやるか?」
「悪かった。つい、な。ティナ、変わりないようで何よりだ」
「ええと、ダン様もお元気そうで何よりです」
ダンは「いいや?」と苦笑交じりに肩をすくめ、
「ティナがいなくて寂しかったからな。こうして会えて、今やっと元気が出たところだ」
「へ? ……嬉しいです、ダン様」
「ティ、ティナ? それってもしかして……!」
「な!? お、おいティナ! まさか俺サマを差し置いて……!」
何やら目を輝かせるダンと、焦りを浮かべるヴィセルフ。
私は内心で小首を傾げつつも、「本当に、嬉しいです」と自身の胸元に手をあて、
「ダン様にはご迷惑をおかけしてばかりだったので、手のかかる侍女がいなくなってやっと肩の荷が下りたと思われているのではないと考えていました。ですが寂しいと思ってくださっていたということは、少しはお役に立てていたのですね」
ダンはパチパチと瞬くと、少し寂し気に笑み、
「俺はそんなにも薄情な男に見えていたんだな……。それなりに態度でも言葉でも伝えていたつもりだったんだけどなあ」
「はっ! 好き勝手人を笑っておいて、ざまあねえな」
(なんでヴィセルフは急に上機嫌に?)
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