第47話ドレスで着飾り出発でございます!
するとと、クレアは「なんだ、そんなこと」と肩を竦めて、
「このドレスさ、ずっとティナに着せてみたかったんだよね」
「私に……?」
「そ。だから今回のお茶会は、アタシにとっても丁度いい口実だったってワケ。せっかくアタシも楽しんでるんだからさ、ティナもちゃんと胸張ってくれなきゃ。それこそドレスがむくれるよ」
手際よく私の髪を編み込みながら告げるクレアは、言葉通り鼻歌でも歌い出しそうな様相だ。
(そうだよね……せっかくこんなに素敵なドレスなんだもの)
つり合うつり合わないはともかく、出来る限り"令嬢"らしく振舞うのが、せめてもの誠意ってやつだよね……!
(それにしても、どうしてヴィセルフは私をお茶会になんて呼びつけたんだろ)
先日、ダンが「ティナは今回のお茶会で、王城のお菓子がどれだけ"外"で受け入れられるか、こっそり探ってほしいんだ」と裏ミッションを伝えてきたけれど……。
それだって別に、侍女として会場で給仕していても可能な話だ。
わざわざそれらしく着飾って、ご令嬢方に混ざるには理由が弱すぎる気がする。
うーんうーんと唸っている間に化粧も終わったようで、クレアが仕上げとばかりに小ぶりな帽子をピンで固定してくれた。
「はい、出来たよ。ちょっと立ってみて」
目を開け立ち上がった私は、思わず「わあ……!」と声をあげる。
「すごい! どこからどう見てもいいところのご令嬢だあ……!」
感動にくるりと回ると、ふわりと広がったスカートの裾がなだらかな曲線を描く。
「本当、お花みたい……!」
はしゃぐ私をクレアは満足げに眺めて、
「うん、思った通り。やっぱり似合うね。可愛い」
「おわあ……クレアにそう言われると、なんか照れるかも」
「そう? それは嬉しいこと聞いた」
クレアはくつくつと笑いながら、私の帽子やら袖やら、細部を直してくれる。
なんだか居たたまれない気分になった私は、「そ、それにしても」と口だけを動かして、
「街では今、こういうデザインのティードレスが人気なんだね。全然知らなかった」
「ん? んーん、違うよ。これはアタシがこれから主流になったらいいなって思ってるデザイン」
「へ?」
と、数歩を引いて私の全身を確認し「……うん」と満足そうに頷いたクレアは、ニッと意地悪気に片目を眇め、
「言ったでしょ? どんなドレスでも着てねって」
(それってそういう意味だったの!!!!????)
つまり今私が着ているこのティードレスは、いわば最先端なデザインってこと。
(どうりで全然見たことない形だと……!)
「ごめん、イジワルしたかったワケじゃないんだけど。やっぱり嫌だった?」
再びに私に近づいたクレアが、不安気にコテリと小首を傾げる。
「ティナなら絶対に着こなしてくれると思ったし、実際、すっごく可愛いけれど……。ティナが嫌なら、予備に普通のも用意しているから、そっちに変えるよ」
「…………」
わかってる。
クレアは言葉通り、私の為にこのドレスを見立ててくれたんだって。
(クレアが私に意地悪だなんて、考えるはずもないのにね)
その気になれば黙って送り出すこともできるのに、今だってわざわざ私の気持ちを優先してくれている。予備まで用意してくれて。
心がほこほこと温まるのを感じながら、ドレスを見下ろす。
……うん。
確かに会場ではちょっと浮いちゃうかもだけど、このドレスが素敵だと思う気持ちに変わりはない。
「このドレスを着てるとね、なんだか特別な"ご令嬢"になれたみたいで、すっごく胸がドキドキするんだ。夢だって言われたら、信じちゃうくらいに」
それこそ、魔法使いにドレスをプレゼントされたシンデレラも、きっとこんな夢心地な気分だったに違いない。
「クレアさえよければ、このドレスを借りてもいい?」
見上げたクレアは、どこか困ったような笑みを浮かべ、
「……ほーんと、ティナって可愛いよね」
すっと。
クレアのしなやかな指先が私の頬横を通って、後れ毛のひと房をそっと耳にかけた。
「きっと庭園一の花になれるよ、ティナ。アタシが保証する」
「……クレアの見立てもドレスも最高に素敵だと思うけど、それはさすがにちょっと褒めすぎだよ」
「そんなことないよ。……まあ、だからこそ心配なんだけど」
「心配? ……そうだ、私こういうお茶会慣れてないし……汚さないように全身全霊で気を付けるね!」
「あ、それは別にいいよ。その一式あげるし」
「……へ!? この一式を!? あげる!?」
「ともかくさ」
そんなことより、と言いたげに肩を竦めたクレアは、
「今日はアタシも会場の給仕になってるし、困った事態が起きたらすぐにおいでよ」
うう、どこまで底なしにかっこよくて優しいのクレア様……っ!!!!
こんな心強い激励を頂いたら、不安もスコーンと飛んでいくってものだよね!!
「頑張っておいで」
巣立つひな鳥を見送るかのごとく慈愛を浮かべて笑むクレアに、私は大きく頷いて、
「うん! 行ってきます!」
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