第38話共同の奪還作戦でございます!
「さて、ちょっとお邪魔してくるな」
ぱんぱんと手を払って立ち上がったダンが、太くねじられたつるの一段目に手をかけよじ登っていく。
「えと、何かお手伝いしますか!?」
「ん? ああ、いや。そこで待っててくれるか」
ひょいひょいと上っていったダンが、辿り着いた先で巣を覗きこむ。
すると、
「あー……アタリだな」
「ありました?」
「ああ。やっぱりここに持ち込まれてたみたいだ。探していたおやつってのは、白い小袋のやつか?」
「あ、それです!」
「わかった。ちょっと待っててな」
ダンが再び巣に向き直り、手を伸ばす。と、
「ピィィッ!!!!」
それまで大人しかったヒイヨドリが、怒りの様相でばっさばっさと羽ばたき、ダンの手を突いた。
「いっ!?」
痛みに手を退いたダンがバランスを崩す。
「ダン様!?」
「っと、大丈夫だ」
体制を持ち直したダンが、再び巣に手を伸ばそうとする。
けれどもやっぱり「ピィッ!」とヒイヨドリに撃退されてしまった。
「ううーん、こりゃどうしたもんかな」
弱ったように頬を掻いたダンが、
「なあ、それ返してくれないか?」
ヒイヨドリに話しかけるも、「ピッ」とそっぽを向かれてしまう。
(ヒイヨドリって、可愛い見た目に花だ光物だって愛らしいイメージがあるけど、けっこう気性が荒いんだっけ……)
このままじゃ大切な私のクッキーも、ダンの探し物も返してもらえない。
(なにか他の手……あ、そうだ)
思いついた私は「ダン様!」と呼びかけ、
「ひとつ思いついたのですが、ご協力をお願いしてもいいですか?」
「ん? なにか策があるのか?」
ダンが不思議そうな顔をして、梯子を降りてきた。
私は彼を見上げ、
「夜光花ってご存じですか?」
「それって、夜になると花が光るっていう、あの夜光花か?」
「はい。あの花は簡単に手に入るものではありませんし、暗がりでも光りますし。その花と交換してもらうっていうのはどうでしょう?」
「なるほど、物々交換か……。試してみる価値はありそうなんだけどな……」
ダンは弱ったような苦笑を浮かべ、
「俺の魔力じゃ、花は出せなくてな」
「あ、それならご心配には及びません。
「そうなのか? それじゃ、試しにやってみるか」
ダンが梯子側の地面に片手をつく。
ぽう、と淡い光を帯びると、細いつるがしゅるっと伸びて、梯子の根本に巻き付いた。
ぷっくりと平たい雫型の葉が、次々と開く。
「と、こんなもんでどうだ?」
「ありがとうございます、ダン様。それじゃ、少々失礼して……」
私は目的の
特別な道具や呪文を持たないこの国での魔法は、いわば想像力だ。
自身の魔力の範囲でも、その力が作用する"想像"がうまく出来なければ、失敗する。
(ええと確か、夜光花の咲き方は……)
夜光花と呼ばれるこの花は、前世でいう夜顔に似ている。
私は目を閉じ魔力を放出しながら、花柄からがくが伸び、蕾が生まれ、成長したそれがふっくら膨らみ、くるりとねじ開く姿を脳裏に描く。
「……うまくいった、かな」
パチリと瞼を上げると、そこには真っ白な夜光花が。
「さすがはヴィセルフの花付け役だな」
「実は夜光花を咲かせるのは初めてでして……本当に緊張しました。上手くいってよかったです」
安堵の息をこぼしながら私は花をぷつりと摘み、ダンに手渡す。
ダンは「よし、これで交渉再開だな」と受け取って、気合満々で梯子を上り始めた。
巣までたどり着くと、「なあ」と警戒するヒイヨドリに声をかけ、
「これと交換してくれないか? ほら、綺麗に光るだろ」
ダンが手の内で花を包んで見せると、ぽう、と夜光花が青白い光を帯びた。
途端にヒイヨドリが興奮したように「ピィッ」と飛び上がり、
「ピピッ! ピッ!」
「お、交渉成立か?」
「ピィッ!」
差し出された夜光花に頬を擦り寄せたヒイヨドリが、片方の羽を広げ巣を示す。
その姿はまさに、「どれでも好きなのを持っていけ」と言っているよう。
「じゃあ、遠慮なく」
ひょいひょいと私の小袋と小さな何かを摘まみ上げ、ダンが降りてきた。
「作戦成功だな」
ほら、と手渡された小袋。
私は「ありがとうございます!」と受け取り、感動の再開に抱きしめた。
(おかえり私のクッキーちゃん!)
そんな私の姿がおかしかったのか、小さく噴き出す気配。
「その中、そんなに珍しいおかしなのか?」
「あ、えと。中身はクッキーなんですけれど、ちょうど今開発中の試作品でして……。あ、よろしければダン様もおひとついかがですか?」
「俺か? あー……と。いや、気にはなるんだが、今回は遠慮――」
その時だった。
「ピィー!」とご機嫌な声がして、ヒイヨドリが飛んできた。
口元には先ほど渡した夜光花が。
「え!? なんで――っ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます