第3話 老婆

 この老婆、実は帰る家を失くしています。あの大地震の折に、老婆だけでなく大半の家々が全半壊しています。しかしめげることなく、村人総出で互いの家の修復を行いました。そして老婆の家の修復に入ることになりました。その折でございます。


「お婆さん一人では暮らしが成り立つまい。 わしの所で面倒を見ようじゃないか」

 村の世話役が、申し出ました。世話役と申しますのは、もめ事の仲裁役でした。といって、裁判官の役ではありません。あくまで互いの話を聞いて、それを互いの相手に伝える役でした。当事者という者は興奮状態にあるから、己では冷静なつもりでも道理が通じないことがあるということです。


 それですんなりと話がまとまるかと思われたのですが、今回はどういうわけか……。と言いますのも、過去においてひどい伝染病が流行った折りに、やはり一人お爺さんが残されました。で、当時の世話役が面倒を見ることになりました。そのお爺さんは天命を全うされたということです。ですのでそれにならって、ということだったのですが。


「いやいや、世話役さん。わしの所は、母ぁと後家娘の三人暮らしじゃ。わしの所に来てもらいますわ」

 と、辰三なる村人が声をあげたそうです。

 さあそれから、「わたしの所は年寄りが居ないから」「話し相手がおらんでは淋しかろうに」と、かまびすしいことに。

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