第13話 可愛いとはかようにも罪である

「あ、エドアルドだ」

「オリアーナ!」


 昨日と同じく次から次へとやってくるイケメンたち。眼福とはまさにこのこと。

 エドアルドは私を見つけ、困った顔をしてやって来る。そして私の両隣を見て肩を鳴らして驚いた。


「サヴォスタ王太子殿下! グァリジョーネ侯爵令嬢!」


 すぐに深々と頭を下げる。

 カリスマ性云々以前に、エステルとトットの立場は他のキャラたちと違うようだ。まあそれもそうか、王族と侯爵家だもの。

 貴族界隈で上位の侯爵家と、貴族界隈と次元の違う立ち位置にいる王族、顔を合わせればそれなりの礼儀を持って対応しないといけないのだろう。


「ソッリエーヴォ伯爵家の者か。畏まらなくていいぞ」

「ありがとうございます」

「エドアルド、どうしたの?」

「オリアーナ、君こそ大丈夫なの?!」


 どうやら今日の朝から授業までのことを心配しているらしい。

 それもそうだろう。彼からすれば昨日の今日で度々キャラクターの違う幼馴染を目の当たりにしてるのだから。


「チアキ、いいえ、ガラッシア公爵令嬢は少々気分が優れないようで」

「本当ですか?! オリアーナ、やっぱり無理して来てたんだね?」

「いえ、もう大丈夫ですので」

「君はいつもそう言って無理ばかりじゃないか!」

「へえ、そうなんだ」

「………」


 ちらりとわんこなオリアーナを見るけれど無視された。となると図星といったところだろう。

 時間が経てば経つほどオリアーナについて知りたいことが出てくるのだから、本当クールで無口なキャラは困る。エドアルドみたく、どんどん話して私に説明してほしいものよ。


「オリアーナ、無理して学園に来ることないんだよ? 元気になってからでも遅くはないんだから」

「あ、ありがとうございます…っ」


 可愛いなあ本当。

 その心情を察したのかエステルとトットが中々の生暖かい眼差しをこちらに向けている。オリアーナはほぼ無視だ。


「魔力の調整が出来ないぐらい酷いなんて……今日の朝も誰かに何かされたの?」

「それは違います」


 あれは残念ながら私自身の不手際です。

 箒が自動起動式なんてきいてませんでしたよ。そういう設定をゲーム内できちんと描いてくれないと。授業全般は本当前知識が全く役に立たなかった。

 所詮はサブシステム。クリック一つで終わるから、このあたりは何も身になってない。しいて言うなら授業数が大体把握できたぐらいか。


「オリアーナ、話したくないならいいんだ」

「いいえ、そんなことは!」


 うわあああ可愛い子がしょんぼりしてると良心が抉られるうう。

 ダメージが大きい。道端で濡れた子猫の拾ってくださいを見てるようだ。けど中身入れかわってますなんて話は出来ない。なんとかオリアーナらしく、やり過ごさないと。


「大丈夫です。ご心配なく」


 心配するエドアルドを宥め、なんとかその場を潜り抜ける。

 これ以上心配されるとまた頭撫で回したくなるから、その愛らしい特技を存分に発揮しないでほしい。

 こういう時、私の煩悩本当頑張ってるな。可愛いとはかようにも罪である。今日のテーマはこれ一択だ。


「……わかった。でも明日、無理しちゃ駄目だからね」

「はい…っ」


 なんとか潜り抜けた。

 エドアルドが去って行った後、午後も講義に出席するけど実技は相変わらずノーコンという悲しい結果だった。

 エドアルドが心配そうにこちらを見ていた。

 ついでにディエゴは訝しむようにこちらを見ていた。

 エドアルドは見てるの分かるけど、ディエゴは何なのか。さっきのオルネッラの話が効いているのか。ツンデレは話さないとわからないものだな。


「魔法についても教えて下さい」

「そうだな」

「ええ、その方が良さそうね」


 魔法の扱い方も学ばないとということで、学園ではエステルとトット、家ではオリアーナから学ぶことになった。

 うん、課題が多いな。新社会人の頃を思い出す。


「あ、エステルもトットも明日同じ時間に来るでしょ?」

「ええ」

「そうだな」

「そしたら時間合わせて私も行くよ」


 彼彼女が馬車に乗って去っていくのを見送り、オリアーナと一緒に歩いて帰宅する。

 二人はどのぐらい遠くにいるのだろう。

 ただでさえ、このあたりは自然が多くて人の家が見えない。

 領地内の先にお隣さんであろう家が見えた程度だ。

 今度ジョギングがてら、領地内を把握しに外に出るとしよう。


「あれ」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「おお!」


 そこには妙齢の女性メイドと老執事、そしてアンナさんが扉の外で待っていた。

 いかにもなお出迎えに感動を覚える。

 お帰りなさいませなんてお店に行かないと体験できなかったのに、こんなすぐにリアルな体験できるなんて、私、オタクに生まれて良かったうん。


「ありがとう」


 扉を開けてもらい、中に入る。

 するとすぐに妙齢の女性メイドが話しかけてきた。


「お嬢様」

「何、でしょう?」

「本日は事業収益について御確認頂く日でございます」

「事業収益?」

「はい」


 思わず笑顔で聞き返してしまうと、御三方は首を傾げたり表情を硬くした。

 あ、身内ですら、あんまり笑顔は向けないのか。


「着替えたらそちらに伺います」

「はい」


 早足に自室に戻り、オリアーナにきいてみる。


「オリアーナ学生じゃないの?」

「学生ですが、事業も今は私がみています」

「おお」


 ちなみにいつからやってるのかきいてみれば驚きの年齢が出てきた。


「十年前からになりますので、6歳ぐらいからでしょうか」

「小学生じゃん」

「しょうがくせい?」


 オリアーナって天才なの? と思わず返すと、神妙な顔つきでそれは違いますと返された。

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