第12話 ノーコンを晒す
「ガラッシア公爵令嬢? 久しく学園には姿を見せてなかったのでは?」
「いらした途端、学園の敷地を魔法で壊しただなんて!」
「恐ろしいですわ、一体何をお考えなのでしょう?!」
「サヴォスタ王太子殿下とグァリジョーネ侯爵令嬢と御一緒と聞きましたが、何故ガラッシア公爵令嬢と……」
「先日も学園で奇行に走っていたという話が……」
困ったことに話がスムーズに広く伝わっていた。
皆、情報早いよ。この世界、光回線もないローカルな世界なのに。
「これは困った」
「仕方ない。昨日の事はなるたけ穏便に済ませたつもりだが、人を介せば話も大きくなるだろう」
「穏便……トット、ありがとう。気を遣ってくれたんだね」
「気にするな」
「イケメェン!」
講義内容については昨日オリアーナから聴いていたけど、今日は朝一番から同じ学年全て共通に受けている基礎的な授業だった。
エステルの隣に座って、そのエステルの隣にトットが座る。念の為、一番後ろの席を陣取ったけど、それはもう奇異の目で周りがこちらを振り向いて見ては、ひそひそ昨日と今日の事を話している。
「静かに」
教授が入って、そう告げると周りはぴしっと声を止め、目の前の授業に入っていった。
皆真面目だな、見本のようにしっかりしている。
「オリアーナは大丈夫かな」
「仕方ないわ。中庭で待っているはずよ」
いくら飼い犬だからだと言っても動物は校内には入れなかった。ので、一番近い中庭に待機になっている。
何かあった時情報聴けないというのは心細いけど、授業を受けるだけなら案外うまくいくかもしれない。
後で美味しいお昼ご飯を一緒に食べよう。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「って、見事なフラグを回収する私」
「チアキ!」
ただ理論を聴くだけの内容ならよかったけど、別で実践付きの内容で見事なまでに私の思いは裏切られた。
「割と簡単だと思ったのに」
「繊細な力の調整が必要な魔法だからな」
物を移動する魔法。
魔法ものなんかでは基礎の基礎だ。
それを私は見事にやらかした。
物を浮かせられたまではいい、そこからスライドして目的地へとなった所で、野球選手も真っ青なほど綺麗にホームランを決めてのけた。一投は壁にめり込んでしまい、もう一投は窓ガラスを割って遥か遠くへ。
目立つに加えてノーコン晒すなんて、もう遠い目しか出来ない。オリアーナなら平然とした顔をしてするっと決めるだろう。
「クールキャラ無理……」
挙句、その時の教授には「いつも冷静なガラッシア公爵令嬢とは思えない慌てぶりですね」なんて痛烈な嫌味までもらった。いや、中身違うと疑われなかっただけ僥倖と言えるけど。
「お疲れ様、チアキ」
「頑張ったと思うぞ」
「う、二人とも神!」
お昼は中庭で食事をとる事にした。オリアーナとも合流し、とりあえずノーコン晒した事を謝っておく。
「普段のオリアーナなら問題なく出来るよね」
「確かに普段のガラッシア公爵令嬢らしくはなかったけれど」
「せめて失敗しても動揺しない強い心が必要かな」
よりクールキャラでいる為には。そうだ、よりクールでいる為にいいことを思いついた。
「オリアーナ、エステル」
「はい」
「何かしら?」
「私に淑女の振舞いとマナーを教えて下さい」
本場がいるならそこから学ぶしかない。振舞いから入れば自然とキャラクターも身につくはずだ。
「私は犬の姿なので難しいかと」
「言葉で伝えられる範囲でいいので!」
「……グァリジョーネ侯爵令嬢は」
「エステル!」
「え! あ、私は構わないけれど」
「オリアーナ!」
「……わかりました。善処します」
この世界の事もまだ聴けてない事がたくさんある。それも教えてもらいつつ、淑女を目指そう。
「そうだ、私とオリアーナの入れかわりのことなんだけど」
「ああ」
すると顔を曇らせる二人。
どうやらあまり良い情報が手に入らなかったらしい。オリアーナが自室にその魔法に関する書物があると言えば、二人ともそれを是非見たいを言ってきた。
そんなに希少価値高いの。むしろどうしてそれをオリアーナが持ってるの。そう思いつつ遠い目をしていると、その先に見覚えのある人が歩いているのを見つけた。
「あ」
「どうしたの、チアキ」
「ディエゴだ」
その言葉は聞こえていたらしい。
やや遠目にディエゴはこちらを向いて、訝しむように目を細めた。とりあえず手を振ってみよう。
「ディーエゴー!」
「……」
そうだと思い至り、席を外す。
予想してなかったのだろう、私が近づいてくると途端、彼は慌てた様子を見せてきた。
ツンデレな挙句、初心っぽいぞ。これはなかなかキャラ設定盛ってきてる、いいね。
「昨日の話、ですが」
「……なんだ」
「えと、家の者に伝えましたので、いつでも姉に会えます」
「え……」
「なので告白の練習に、いつでもどうぞお越し下さい」
「な……」
朝、専属メイドのアンナさんに頼んだから大丈夫。かなり吃驚してたけど、一応首は縦に振ったし、メイド長たちに伝えるとも言っていた。
もしかしたら家長である親御さんに話を通さなければならないかもしれないけど、そこはまだ会えてないから話は後出しで勘弁してもらおう。あれ、そういえば昨日は親御さんのおの字も出てなかったな。
「き、昨日からなんなんだ」
「え?」
「ふん」
眉間に皺を刻んで、そっぽを向いて去っていった。エステルたちの元へ戻ると、トットが彼を見ながら呟いた。
「ソラーレ侯爵家の者か」
「やはりツンデレだったわ」
「チアキ?」
「ああごめん、こっちの話」
これがきっとオルネッラに対しては貴重なデレが見られるのだろう。
それを想像するだけでおいしい。告白しに本当に来てくれたら思う存分現場を見させてもらおう。
「あ、エドアルドだ」
「オリアーナ!」
昨日と同じく次から次へとやってくるイケメンたち。眼福とはまさにこのこと。
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