亡霊の独白
いつからだろう。悲痛な声が私の名を呼ぶようになったのは。
客間のベッドに横たわっている「お嬢様」は深い眠りについている。その閉じた瞼の下には、はっとするほど青い瞳が隠されている。私の美しいお嬢様……
いや、ちがう。
彼女は……「お嬢様」は……
また、意識が混濁してくる。このところ特に酷い。彼女の姿を目にするだけで、深い闇の底に意識が持って行かれそうになる。自分が自分でなくなるような、渦巻く衝動に無理矢理突き動かされるような、得体のしれない感覚に陥るのだ。
ふと、私の視界に黄ばんだ紙束が飛び込んできた。ベッドのサイドテーブルに置かれたそれは、以前にも眼にしたことがあった。『夢の記録』と書かれた紙束……この「お嬢様」が書き記しているものだ。
その表紙を目にした瞬間、私の中にけたたましい警鐘が鳴り響いた。この中を絶対に見てはならない……見たら自分は苦しむことになる、そんな胸騒ぎがする。
ひどく不気味な心地だった。私は何かとても重大なことを忘れているのではないだろうか。大切なものを失っている……そんな気がしてならない。この焦燥感は、一体何なのだろう。
紙束はあの時よりも明らかに厚みを増している。私の意識が明瞭でない間に書き足していたのだろう。この中を見れば、取り戻せるのだろうか。胸に空いたような空白を埋めることができるのだろうか。
私は迷いながらも手を伸ばしていた。彼女の書き綴る『夢の記録』へと。
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