3.悪魔のささやき

 私が通う高校では陰湿なイジメが続いている。

 誰か一人をターゲットに決めて、集団で無視するのだ。


 ――止めてあげてよ!


 声を大にして言いたい。

 でもそうすると、今度は自分がターゲットにされてしまう。


 だから、私を含めてクラスメートは皆、見て見ぬふりをした。

 この間おしょうゆさんが言ってた通りだ。空気の悪い面だった。

 何もできない自分が悔しい。おしょうゆさんに返す言葉がない。


 ん? おしょうゆさん?

 おしょうゆさんに相談したら、もしかしたらなにかいい解決策を教えてくれるかも?


 だから私は、次の日からおしょうゆさんをカバンの中に入れて登校することにした。




 例のイジメが始まると、私は机の上にちょっと醤油を垂らす。


『どうしたんや、沙希ちゃん』

「クラスメートがいじめられてるの。どうしたらいい?」

『せやな……』

 しばらく間が空いてから、おしょうゆさんが行動を開始した。


『ちょいと、無視されとる子の耳元でささやいてくるで』

「そんなことできるの?」

『大丈夫。心に傷を負っとる子は、わいの声が聞こえるんや。聞こえんかったら、一人が好きっちゅうことやな』

 それはそれで、救いが無いような気もするけど。

『ほな、言ってくるで』


 おしょうゆさんの行動は、すぐに効果があったようだ。

 というのも、無視されていた子はニヤリと口元を結ぶと、怒りを込めて首謀者の耳元で何かをささやいた。

 みるみる青ざめる首謀者。大きな衝撃を受けていることは明らかだ。


「ねえ、おしょうゆさん、何てささやいたの」

『あのイジメっ子はな、気持ち良くなりたいところに、ちょいと醤油を垂らす癖があるんや』

 変な性癖だった。

「なんで、おしょうゆさんにそんなことが分かるの?」

『醤油ネットワークやな。日本にはどの家にも醤油があるさかい、このネットワークは最強やで』

 恐るべし醤油ネットワーク。



 次の日も、ターゲットになった子が首謀者を撃退した。おしょうゆさんのささやきには、相当な破壊力が秘められているようだ。


「ねえ、今度は何てささやいたの?」

『あのイジメっ子はな、醤という字を「将に酉」やなくて、「将に西」って書いとったんや』


 いやいや、自分も「将に西」って書いてたわ。


「それも醤油ネットワーク情報?」

『せや。醤の字の恨みは晴らさせてもらったで』


 一体どんなネットワークなのよ。ていうか私もヤバい?

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