この美味しい野菜を食卓に!
《注:この二次創作は、このファンのストーリーのセリフや流れが多分に盛り込まれていますw》
寒くなると、モンスターたちは冬眠を始める。
ゆえに、この時期のクエストはろくなものがない。
「カズマ、この一撃グマの討伐クエストに行こう!心配するな、攻撃は全てわたしがうけてやるっ!」
ギルドに張られているクエストを指差しながら、ダクネスは顔を歪めてよだれをたらしていた。
「カズマカズマ、この爆走イノシシの群れ討伐クエストにしましょう!爆走の文字が気に入りました!わたしの爆裂魔法で一匹残らず始末してやりますよ!」
ギルドに張られているクエストを指差しながら、めぐみんが何がかっこいいのか良く分からないポーズを決めながら騒いでいた。
「カズマさん、カズマさん、雪精の」
「それは行かない!二度と行かない!」
アクアの言葉を遮り、カズマは蘇りつつあったトラウマを振り切って叫んだ。
「なんなんだっ!ろくなクエストがない!これじゃ借金が返せない!冬を越せないぃぃぃ!」
カズマは泣き崩れた。なんやかんやで一時は小金持ちになったカズマだったが、なんやかんやで今は立派な借金持ちに成り下がっていた。
「おっ、簡単そうなクエストがあるぞ。だが、これはダメだな。これではわたしは満足できそうにない。もっとこう、強くてヤバそうなクエストが、うぇへ」
ダクネスの言葉に、カズマは顔をあげた。
見てみると、そのクエストは「野菜の収穫」だった。
「カズマさん、これならいいんじゃないかしら?いくら貧弱なヒキニートでも、野菜の収穫くらいでは死なないと思うの、ぷぅぅ~くすくす」
「カズマ、これなら良いのでは?迫り来る野菜たちを、我が爆裂魔法で屠ってくれるわ!」
「このクエスト、サムイドーからの救援クエストだな。カズマ、エイミーたちの所に話を聞きに行かないか?」
ダクネスに促され、カズマたちはギルドを後にした。
アクセルの街の一角に露店を出して、ミーアとエイミーは今日も野菜を売っていた。
「美味しい野菜だぞ~!なまらうめ~から買ってけ~!」
「よっ!ミーアにエイミー。久しぶりだな、寒くなってきたから野菜がたくさん売れるだろう?」
「カズマくん、久しぶり。そうなの、すぐに完売するから嬉しいわ」
「寒くなると、みんな野菜を鍋に入れて食べるからな~。ミーアは野菜より肉が食べたいぞ!」
野菜が売り切れたので、ミーアたちは露店の片付けをし始めた。そんな二人に、カズマは本題を切り出した。
「エイミー、ちょっと聞きたいんだけど。ギルドで野菜の収穫クエストがあったんだ、今年のサムイドーは人手が足りないくらいの豊作なのか?」
「そんなことはないわ。サムイドーは毎年みんなで食べるぶんの野菜しか作らないもの。人手が足りないほど作ったりはしないわ」
カズマの質問に、エイミーは子首をかしげながら答えた。そこに、笑顔を浮かべたミーアが割り込む。
「ミーア知ってるぞ!ウォルム山の野菜たちが今年はたくさんで、山の麓に住んでるやつらが襲われたって!隣のばぁーちゃんが言ってた!」
「あらあら。ミーアちゃんは物知りね、偉いわぁぁ~」
「えへへ」
エイミーは蕩けそうな笑みを浮かべてミーアの頭をなで始めた。ミーアも嬉しそうに笑顔で返した。
「だが、野菜に襲われたと言ってもサムイドーに住むのは屈強な獣人だろう?野菜ごとき、相手にならないだろう」
「ダクネスさん、この時期の野菜を侮ってはいけないわ。ウォルム山の野菜は狂暴で、その一撃は頑丈な獣人の毛皮でも耐えられないほどよ」
「よしカズマ、すぐに行こう」
ダクネスは、エイミーの言葉を聞いて俄然やる気になった。
「獣人でも怪我をするほどだぞ?俺は雪山には行きたくない!断固拒否だ!」
「確かに狂暴だけど、ウォルム山の野菜は美味しいから、とっても高く売れるのよ~」
「よし、すぐに行こう」
カズマは、エイミーの言葉を聞いて俄然やる気になった。
「カズマ、ミーアも行くぞ!」
「あらあら、ミーアちゃんが行くならわたしも行くわ~」
こうして、カズマたちは『野菜の収穫』クエストを受け、サムイドーにあるウォルム山へと向かった。
「ううぅぅぅぅ、さむ、寒い・・・」
「カズマ、だらしないぞ。この程度の寒さではものたりん!指の先が紫色になるくらいに、わたしを攻めてみせろっ!ウェヘ」
凍てつく雪山だというのに、ダクネスは薄着だった。薄着だが、なぜか火照っていた。
しばらく雪山を登っていると、ちらほらと野菜たちの姿が見えはじめた。
「キャベキャベキャベ」
「トマトマトマ」
「コーンコーン、とうもろコーン」
野菜たちはカズマたちを見つけるやいなや鳴き声をあげ、すごい勢いで突っ込んできた。
「なんだあの野菜たち、ずいぶんと好戦的だな!」
「カズマ、ここはわたしに任せろっ!デコイっ!」
ダクネスは我先にと前に出て、スキル『デコイ』を発動した。
デコイに引き寄せられ、狂暴な野菜たちはダクネスへと殺到した。
「くっ、野菜のくせにっ、なかなかやるっ・・・あぁっ、いいぞ・・・もっとだ!あぁぁぁぁぁぁ・・・寒さと痛さで、くりゅぅぅぅ、良いぃぃぃぃぃ」
「エイミー、なんでダクネスは嬉しそうなんだ?」
「ミーアちゃん。見ちゃ、めっよ?」
エイミーは、そっとミーアの目元を両手で覆った。
「よし、今だっ!ダクネスに注意が向いてるすきに、」
「エクスプロォォォォォォォジョンッ!」
カズマが野菜に狙いを定めて弓矢を放とうとした瞬間、目の前が消し飛んだ。
爆風に煽られ、カズマは山の下に転がり落ち、積もった雪に突き刺さった。
雪で真っ白だった山肌はめくれあがり、野菜も雪も、何もかもが消え失せていた。
「真っ白な大地に放つ爆裂魔法・・・くるものがあります。カズマ、おんぶ・・」
めぐみんは、顔面から真っ直ぐに倒れこんだ。
「ぶはぁっ!はぁっはぁっ、危なくエリス様のとこに行くとこだった!おいこら、めぐみん!爆裂魔法でせっかくの野菜が消し飛んだぞ!」
「カズマ、地面が冷たいので早くおんぶしてください・・・」
「あらあら、こんなに騒がしくしていたら、山の主が目を覚ましちゃうわよ?」
「山の主?」
心配そうに言ったエイミーの一言に、カズマは嫌な予感を覚えた。
ゴゴゴゴゴゴゴッという地響きと共に現れたのは、見上げるほどに巨大な、メロン。
「メロロロロロロ~ンっ!!」
「でけぇぇぇぇぇぇ!」
「カズマくん気を付けて、あれは山の主にしてサムイドーの王様、最高級マスクメロンよっ!」
「なんと巨大なっ!相手に取って不足はないっ!さぁっ、わたしを攻めるがいいっ!さぁっ!さぁっ!」
「エイミー、なんでダクネスはあんなに喜んでるんだ?」
「ミーアちゃん。見ちゃ、めっよ?」
エイミーはミーアを後ろから抱き締め、両手で優しくミーアの目元を覆った。
「かずまさぁぁぁぁん、やばいんですけどっ!野菜の収穫じゃなくてこれじゃモンスター討伐なんですけどぉぉぉぉ!」
「アクア、とりあえずめぐみんを助けろっ!俺とダクネスでやつを引き付ける!」
「・・・・・・・」
めぐみんは力尽き、うつ伏せで倒れていた。
アクアはめぐみんをズルズルと引きずり、岩場の陰へと放り投げた。
最高級マスクメロンの激しい体当たりを受け、ダクネスは吹き飛ばされた。薄着の服は所々が裂け、肌が露出していた。
「エイミー。ダクネス、あんなにボロボロなのに笑ってるぞ?」
「ミーアちゃん、危ないから岩陰にいましょうね?」
エイミーはそっとミーアの背を押し、ダクネスの方とは反対側へとミーアを導いた。
「狙撃っ!狙撃っ!狙撃っ!」
カズマの放つ矢は、最高級マスクメロンの硬い表皮に傷ひとつ付けられずにいた。
「トマトマトマトマトマトマ」
「キャベキャベキャベキャベキャベ」
最高級マスクメロンに誘われるかのように、多くの野菜たちが集まってきた。
「やばいやばいやばい、これはやばいぞっ!」
「かずまさぁぁぁぁん、わたし死にたくないンですけどぉぉぉぉ!助けて、かずまさぁぁぁぁん!」
「いい、いいぞ!もっとだ、もっと来い!」
泣き叫んでカズマにしがみつくだけのアクアとは対称的に、ダクネスは闘志を燃やしていた。いや、性癖を爆発させていた。
「カズマくん、こっちがわから滑り落ちれば逃げられるわっ!」
エイミーは声を張り上げて山の斜面を指差していた。
そちらがわは、めぐみんの爆裂魔法を放った場所の反対側だった。
それを聞いたカズマは両手をつきだし。
「クリエイトウォーター!」
カズマはがむしゃらに魔法を打ちまくった。
カズマの放った水流はめちゃくちゃで、狙いもなにもあったものではない。
が、。
「フリィィィィィズッッ!」
カズマが放ったのは氷結魔法。
ランクの低い魔法だが、ウォルム山の寒さと相まって威力は跳ね上がり、無数の野菜たちの動きを止めることに成功した。
「今だっ、全力で逃げろぉぉぉぉぉ!!」
カズマは振り返り、全力で走り出した。
途中でめぐみんを抱き抱え、雪の積もる山肌を滑り降りた。
「エイミー、楽しいなぁぁぁ」
「ミーアちゃん、離しちゃだめよ?」
ミーアもエイミーを抱き止め、山肌を滑り降りる。
ダクネスはゴロゴロと転がり、恍惚の表情を浮かべ、雪だるまとなって斜面を転がり落ちていった。
命からがらサムイドーに逃げ帰ったカズマたちは、エイミーのうちで暖を取り温かいスープをいただいていた。
「もう、ぜっっっっったいに雪山へは行かないっ!」
「カズマ、わたしはすごく良かったぞ?あの巨大なメロンに押し潰され、固くて屈強な野菜たちに囲まれてなすすべもく・・。くぅぅぅぅ~」
「エイミー、ダクネスはなんであんなにはしゃいでるんだ?」
「ミーアちゃん、コーンスープよ。ふぅ~ふぅ~して飲んでね?」
「わたしの爆裂魔法でかなりの野菜たちを屠ることができました。レベルが上がったので、また爆裂魔法が強くなりましたよっ!」
「なにが野菜の収穫よ!女神の私を騙すなんて、ギルドに文句言ってやるんだから」
それぞれがそれぞれの思いを口にし、寒くて辛い1日が終わりを告げた。
この雪降る季節に祝福を。
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