強くなりたい

「はぁ…はぁ…はやいですよ…やっと追いつきました…」


「お前、ほんと弱いなぁ…これでも4割程度のスピードしか出してなかったぞ。」


昴流はぜぇ、ぜぇ、と息を乱し、大量の汗をかき、その場でばてている…しかし力也は、余裕そうに立ち止まり昴流が来るのを待っていた。

先程、不良に絡まれていた昴流を助けた力也だったが、思わず不良をノックアウトしてしまい、警察に見つかる前に逃げてきたということだ。


「あ、あの!先程はありがとうございました。」



「おう、じゃあ気ぃつけて帰れよ。不良に絡まれないようにな」



昴流は息が落ち着いた時、助けてくれた力也に対し、お礼を言った。力也は、その礼に対し素っ気なく返す。実際力也と昴流は他人同士、当たり前だろう。すぐ帰ろうとする力也、しかし昴流は…聞きたいことがあった。まだ帰らせたくなかった。しかし、弱い自分には、それを聞く勇気すらだせずにいる。


しかし、変わろうとする彼の意思が、口を開かせた。


「あ、あの!強くなりたいんです……あなたのように!」


帰ろうとする力也は、立ち止まり昴流の方を振り向いた。すると昴流の目の前まで歩いて戻ってきた。


「強くなりたいねぇ…そんなことより勉強して、いい大学行って、大企業に就職する方が…人生いいもんだと思うぜ。そして、どうして強くなりたいんだ?」


力也は、強くなりたいという問に対して、勉強しろと答えた。強くなったって、この先の人生あまり役に立たないと伝えたかったのだろう。確かにそうだ、ほとんど人間は会社に勤め、働き、家庭を持ち、幸せに暮らす。幸せに暮らすために闘争など必要ないのだ。


「僕、昔からこうなんです…小さい頃からいじめられるし、好きな子には頼りないからって振られるし…不良にはカツアゲされる。変わりたいんです!」


勇気を振り絞り全てを話す昴流。それを冷たそうに見つめる力也。


「じゃあ、強くなってどうする…その力を振りかざすか?そしたらあの不良と変わらない。」


「僕は、それでも優しくありたい!搾取される気持ちなら人一倍わかってるつもりですから。自分の友人や家族が、大変な目にあって、それを助けるために力を使いたい。」


昴流は根から優しい人間だ。そんなことは、力也も分かっていただろう。彼の心がひしひしと伝わってくるからだ。だからこそ本当に彼が力を良い方向に使いたいのか確かめるためにあえて冷たい態度をとっていた。


「分かった…お前、名前は?」


「天野…天野 昴流です、、、」


「いい名前じゃねぇか…しょうがない。強くなる方法を教えてやる…だが、、、」


力也は、ふっと笑い。昴流を認めるように話した。その後、メモ帳とボールペンをポケットから取り出し。何かを急いで書いている。


「3ヶ月、3ヶ月の間お前を試す。このメモに書いてあるトレーニングのメニュー、、、毎日欠かさず行え。多分今のお前には辛いだろう…大変だろう…だがやめたくなってもやめるな。辛くてもやめるな。それをこなせなければ、俺は、お前に何も教えないし、お前は強くなれない」



五分ぐらいたった後に、トレーニングメニューを書き示したメモを昴流に渡した。これくらい続けることが出来なければ、強くなれないという彼なりの考えなのだろう。


「ありがとうございます!3ヶ月続けます。絶対に、、、」


「分かった…お前がそのメニューをクリアすること待ってるぜ、、、じゃあ…」


メモを受け取り頭を下げてお礼を言う昴流。それに対して、照れ隠しか素っ気なく力也は、反応した。そして立ち去ろうとするが


「やべっ、ひとつ忘れてた!!耳かせや耳。」


「は、はい。」


結構進んでから焦って戻ってきた力也。なにか言い忘れてたことがあるのだろう。


「そのメニューをクリアしたら……ゴニョゴニョ」


「わ、分かりました。」


「それだけだ!頑張れよ昴流!じゃあな」



力也は、耳打ちで昴流に何かを告げた後颯爽と帰っていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る