二回目 ⑪無言の篝火

 二回目の後夜祭は事もなく終わりを告げた。これといって変化はなく、僕らがダンスを踊らなかった以外は昨日通りだった。立ち上っていた篝火は、とてもじゃないが綺麗だとは思えず、寧ろ不愉快極まりなくて今すぐ消火してやりたい衝動を抑えるのに気苦労したほどだった。恐らく柚希や梨乃も穏やかな感情は抱いていなかったと思う。僕のように非行に走りたいと思うほどではなかっただろうが。

 キャンプファイヤー中、梨乃は普段通りもちろん無口で、柚希ですらも何も口にしなかった。無論、僕も黙って中央の火の手をただただ眺めていた。

 何せ僕らは、明日への不安でキャンプファイヤーどころではないのだから。

 味気ない後夜祭が終わると、一度部室に集合したのだが、これからどうするかなんて考えたってどうにもならないという結論に至り、僕らはそのまま帰宅することにした。

 無事に明日が訪れることを各々が懇願して。

 自室のベッドに横になる。今日一日を振り返ってみるが、こうなってしまった原因とやらに思い当たる節はなかった。いちご味のかき氷が残っていたことも、放送室が使えたことも、別に僕らが直接的にも間接的にも関与しているとは思えない。

 他の人たちには何の影響もなく、文芸部の僕らだけがなぜか同じ日を二回繰り返している。それがさす意味とはいったい何だろうか。

 まさか、僕が柚希に告白してしまったのが原因か? いやいやそんなはずはないだろう。

 もしもそれが原因だったのなら、今日は告白しなかったのだから明日はきっとやってくる。そうなってくれればとても喜ばしいが、どうして告白がトリガーとなってしまったのか説明がつかないのだから、まずありえないだろう。

 そんな可能性を自ら全力で否定した。

 仮に、告白したという事実が原因で書き換えたとしても、僕と柚希のギクシャクした関係は修復不可能だろう。認めたくはないが諦めざるを得ない。

 だったら同じだ。書き換えても、書き換えなくても何も変わらないし、何の意味もない。

 壁掛け時計で時間を確認すると、いつの間にか二四時を周ろうとしていた。それを認識した途端、急に眠気が襲ってきた。僕はこの現象に抗うべく、意識を保ったまま次の日を迎えようと企んでいたのだが、どうやらその行いを許してくれないらしい。

 必死に目をこじ開けていたのだが、カチッと二本の時計の針が重なった瞬間、眠気に逆らうことが出来ずに僕はそのまま眠りに落ちた。


 昨日かかってきたはずの電話はかかって来なかった。

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