幕間 彼方と柚希の出会い

 神様は凄く意地悪だと思う。よりにもよってフラれた日の夜に、初めて出会った日の記憶を見せるとは……。



 裏門は、とても静かだった。基本的に来訪者は、正門の受付を済ませてやって来る。念のためにと設置された裏門には、中々人はやって来ない。

 そっとため息をつく。

 どうせこんなに暇だったんなら、文庫本一冊でも持ってくればよかった。

 隣にもう一人当番の生徒が居る。だが話したことはない。同じ学年ではあるが、クラスも委員会も違う。名前は確か、椎名柚希と言っただろうか。彼女は隣のクラスで、図書委員会に属している。因みに僕は美化委員だ。

 受付係は、図書委員会と美化委員会が合同で担当することになっている。ランダムに振り分けられた時間帯とペアで、門番をしなければならないのだ。

 それにしても暇すぎる。誰も来ないみたいだしゲームでもやってるか。

 ポケットからスマホを取り出し、アプリゲームを立ち上げる。手慣れた操作でキャラクターのコマンドを選択し、敵陣営を抹殺させる。


「っしゃ。目標達成っ……」


 思わず声を出してしまった。慌てて口を塞ぐが、どうやら隣人にも聞こえていたらしく、もの凄い勢いで画面に食いついて来た。


「あ! 瀬戸くん『運命の夜』やってるの⁉」


 鼻息も荒く、目もすごくキラキラしていた。この人もオタクだ。直感でそう思った。


「今回のイベ最っ高だよね~! わたしホームズとアーティがすっごい好きなんだ~! あの二人の絡みって素晴らしくない⁉ 今回のも御馳走さまって感じでさ~!」


 とにかく勢いが凄かった。こっちの反応を一切無視したマシンガントークは、来訪者が来るまで続いた。やがてその熱が静まると、「ごめんね~。ついつい熱くなっちゃった~」と彼女ははにかみ顔で頬を掻いた。そんな彼女に向かって僕は思わず口を開いてしまった。


「もしかして椎名さんって……腐女子……?」


 言ってしまった。いきなり初対面の相手に腐女子? なんて聞かれるのは、彼女もいい気はしないだろう。自身の行為を反省し、ここは素早く謝った方がよさそうだ。

 そう思い、恐る恐る顔を上げると、予想と反して彼女は満面の笑みだった。


「ふっふっふ。そーです! そーなのですよ! わたしは腐女子なんです!」


 胸に手を当て、彼女は得意満面に言い放った。

 ここまで堂々と腐女子を公言する人を見たのは初めてだった。

 僕は呆気に取られてしまい、返す言葉も見当たらない。そんな僕に向かって、彼女は指をさしてこう告げた。


「瀬戸くん! さては君、百合好きだな!」


 またしても、彼女は自信ありげな口ぶりだった。

 いったいどこからそんな自信が湧いてくるのだろう。ふと手元の画面に目を落とすと、そこにはマリーとジャンヌの二人が並んで映っていた。なるほど、そういうことか。

 この二人は、公式的にもカップリング認定されており、非常に認知度の高い百合カップルだった。つまり椎名さんは、この画面を見て僕の趣味嗜好を察したのだろう。

 彼女なら、僕の趣味を理解してくれるのではないか? そう、心がざわついた。

 これが、僕と柚希の出会いだった。

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