第57話「球場で語る②」

「いやさ、中学時代との奴らとはちょっと連絡つかなくて、高校入ってからの奴はイブに引き続いて今日も彼女と会うっていうしさ」


 中学時代の奴らは俺が荒れていた時に迷惑をかけて連絡がつけづらく、また、吉崎の馬鹿は携帯電話がつながらず多分、一人枕を濡らしてる事だろう。ちづる先輩も用事があるようだし、呼ぶ人がいない。


「……あんた一体どういうつもりよ?」


 神谷は俺のいっている事が理解できないようだった。確かに普通に考えれば神谷にお願いをするのはおかしいのかもしれない。

 だから一つ約束をする事にする。


「頼む。このお願いを聞いてくれたら、俺は無理に神谷と関わらない、だから」


 神谷は頭をさげる俺に対して、懐疑的な目を向けながらも、渋々といった感じで了承した。


 ……これでまずは神谷と話す機会を得た訳だ。


 試合は残すところ後一回限りとなり、先行の相手側チームからの攻撃が始まる。良太はいまだ試合には出ていない。


 良太が所属しているチームの先発投手は調子が悪かったらしく、二回に入ったところで、投手が交代し、そこから続く中継の継投をつなげ、なんとか同点に抑えている状況だ。今のピッチャーで三人目であり、もう控えの投手はいない。


 神谷は野球の観戦に慣れていないようで、暇なのか珍しく話かけてきた。


「あんたさ、ブラコンだったのね」


 たぶん、毒舌で俺に嫌味をいいたいのだろうが、神谷から声をかけられたのなら、会話は成立するので、腹も立たず、逆にその事に俺はほっとする。


「いや、別にそういう訳じゃない。人の物、勝手に食べたりするし、頭にくる弟だと思っているよ。それと俺の両親は明らかに弟びいきだけしな」


 はちみつ柚子プリンの恨みは深いからな、許しがたき悪行だった、あれは。昨日のクリスマス・イブも弟の誕生日会のような様相だったし。俺も高校生とはいえ子どものはずなんだけどな……。


 とはいえ確かに弟は憎めない。

 その理由もちゃんとあるのだ。


「ただ、良太はさ、俺の恩人だから」


打たれては守り、なんとか一、三塁と残塁を残しながらも無失点、スリーアウトチェンジ。


 次は後攻、良太のチームの攻撃だ。

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