第31話「勉強会をしよう①」
現在、俺たちは学校の図書館にいる。
あの後、テンプルに一撃をくらい、拒否をくらった俺は次の提案をしたわけである。
街中を歩いて、目撃証言を一杯もうけてやれば、付き合っている証明になるのだが、それはお気に召さないようだった。というか殺意を感じた。そうそう基本、俺は神谷に嫌われてるんだったよな。休みの日まで会いたくないと当然か。そんなの俺もだけどな。
それで第二策、勉強会である。
放課後に学校に残って勉強をして、ラブラブ度(擬態)を示すという事だ。後は神谷の成績がいいから、あわよくば勉強を教えてもらおうという算段である。それくらいの役得はほしいところだ。
期末テスト期間前という事もあり、図書館にはそれなりに人も多い。
神谷と俺が図書館に入ってきた時は場が騒々しかったが、それも今は一段落している。カップルで勉強を教えあっている奴らもいて、静かに勉強をしているものの、楽しそうだ。
ちなみに俺たちはというと。
神谷は一部の隙もなく、完全に集中してがりがりと問題集を解いている。
今は英語のライティングの勉強をしているようで、解いては答あわせをし、間違ったところにマーカーを引いて、やり直し、類似問題をさらに解き、理解を深めるという事をやっているようだ。
俺の事など忘れたかのような振る舞いである。
かれこれ二時間ほどたつが一言も話していない。
すごい集中力だ。俺はピッチャーやってた時以外、ここまで集中した事がないな。
しかし、全然、これだとカップル(擬態) らしくないのではなかろうか。
「……神谷」
カリカリカリカリカリ。
「神谷」
カリカリカリカリカリ。
「かーみーやーさーん」
ボキッ。
シャーペンの芯をおり、刃物のような鋭さでにらまれた。
「……うるさいんだけど、出て行ってくんない?」
「叩き出すわよ、って目で見るなよ。俺が出て行ったら勉強会の意味なくなるだろうが。それじゃあ、ただの自習だろう」
「……じゃあ、勉強会ってなにするのよ? 私やったことないから分からないわよ」
神谷は肩眉をよせ、面倒くさそうにいってくる。
まあ、こいつ友達いなさそうだもんな。
「そりゃー、ほら分からない問題をいいあって、一緒に考えたり、教え合ったりするんだよ」
「あんた、成績いいの?」
「中の中……いや下かな?」
カリカリカリカリカリ。
「ナチュラルに勉強再開するんじゃない」
「私の時間の無駄だわ」
ばっさりいいやがった。確かに俺とお前とじゃ頭のでき具合に明らかに差があるかもしれんが。
「あのな、神谷、分らない奴に勉強を教えて、改めて教える側にたつ事により、その事を深く理解するっていう事があるんだぞ。これは自習じゃあ培えない勉強法だ」
これはピッチャーとして後輩にボールの握り方や、腕の振り方、配球をどのように組み立てるかなど、教えていくうちに自分の野球勘が深まっていった経験に基づいていっている。決して勉強を教えて欲しいが為にでた言葉ではないと、断っておこう。
「……ちなみになにがわかんない訳?」
おおっ、のってきた、たぶん無視されるだろうなって覚悟していたのに。
「いや、この三角関数っていうのが、ちょっと」
なんで、数学でサイン、コサイン、タンジェントとか単語が出てくる訳だ? XとかYとかZとか英文字だけでいいだろう、それだけで意味を持つような奴を出してくるなよ。考える気が失せるわ。
「私も数学や物理はあまり得意ではないけど、初歩なら、ね。この学校に転校する前にも習ったし」
「頼みます、神谷さん」
そういって神谷は一時間ほどかけて、教えてくれた。
それで俺がどれだけ分ったかというと、ふんわりである。
これは俺の頭が理系分野に特化していないせいだともいえる。決して頭が劣っているわけではないと、いわせてくれ、頼むから。
後は教えを請うておいて、申し訳ないのだが、神谷は教えるのが下手くそだった。なんというか、あれだ、こっちが何を疑問に思っているかを把握せず、話があっちへいき、こっちへいき、結局、結論、数式暗記しろ、で終わるクオリティ。
下校のチャイムが鳴り、周りの生徒たちが帰り始め、俺たちも鞄を持ち、図書館を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます