第30話「ランチタイムはスキンシップ②」

「なにするんだよ、お前は」

「さっさと本題に入りなさいよ。あんたの顔見ながらご飯食べるだけで、食欲が減るのに、無駄話に興じたくないわ」


 ああ、だから横並びに座って食事しようとしてるのか、納得したよ。ちくしょうめ。


「つうかそれだよ、それ、無駄話に興じたくないっていう奴。俺ら付き合ってるんだろ?」


 ゴッと神谷の怒りメーターが急上昇するのを俺は見た。


「――付き合っているふりをしているの? そうよね? あんた何か調子に乗るつもりならミンチにするけど、それでいい?」


「違う、違う。もちろんふりだよ、ふり。けど、お前、俺と必要最低限しか接触しようとしないだろう? それを怪しんでやがる奴がいるんだよ。クラスの吉崎だな。あいつは実は付き合ってないんじゃないかって思ってるぞ」


 俺は冷や汗をかきながら、否定する。食事中にこれ以上殴られたくはない。


「誰よそれ?」


 神谷は眉をよせて、疑問の声をあげる。

 こいつナチュラルにクラスの奴の名前分かってない。あいつ目立つ奴なのに……。


「ほら、罰ゲームだなんだって騒いでた背の高い方の」

「ああっ、あの馬鹿三人組の暑苦しい奴ね」


 馬鹿三人組ってそれ、俺入ってるよな? 頼むから吉崎と同列に語るのだけはやめてくれ。


「別にいいじゃない。好きに思わせとけば。気になるならあんたが適当にごまかしたら」


 こいつは吉崎という男を分かっていない。まあ、名前を知らないんだから、当然なのだが。奴にこの事を気取られたら危険なのだ。それを今から証明してやらねばならない。


「神谷、お前これまでこの学校に転校してきて、何回告白されたか覚えてるか?」

「なによ急に? そんなのいちいち覚えてないわ」


 ふっ、告白されなれている奴のいう事は違うな。別にうらやましくなんてないけどさ。……ちくしょう。


「じゃあ、教えてやるよ。手紙での告白が二十七通。対面での告白が十八回ってところだ。その内、手紙と対面両方で告白してきた奴が五人いて、三回告白をした奴が一人いる」


 ドスッ!


「げはっ!」


 狙い済ましたように同じところに肘を入れてくる。


「……本当きもいんだけど」


 汚物をみるような目で見てくる神谷。


「いや、待て。この情報を聞いたのは吉崎からなんだよ」


 眉をひそめる神谷に、俺は痛みをごまかすように咳払いして話を続ける。


「あいつはさ、この学校で情報の売り買いを生業にしてるんだよ。どういう手を使って情報を集めているかは謎なんだけど、あいつの情報なら、結構な連中が信じるし、下手をすれば爆発的に情報が出回る。ちなみにKKMの事も俺はあいつから聞いたからな」


 ドスッ!


「ぐはっ!」


 三回連続とか神谷マジ鬼畜。しかし、今の一撃は理不尽だろう。


「なんで、今肘いれてきたんだよ。俺ただ説明しただけだろうが!」


 当然のごとく俺は抗議する。殴っていいとはいっても、ただ理由もなく殴られるだけなんてたまったものではない。


「吉崎って奴にむかついたから、だからあんたを殴ったの」


 文句ある? とにらまれる。


「……左様で」


 俺はすごすごと頷くしかない。


 他人事まで殴っていいとか、勇ましくいうべきじゃなかったのかもしれん……。ああっ、ちょっと後悔。くそっ、吉崎、全てお前のせいだ、いつか復讐してやるからな。


「これで置かれている状況は分かっただろ?」

「ええ、今、私には心底顔も見たくない奴が私の横にいる代わりに、他の奴らを近づけないようにしているのに、その意味がなくなってしまうという事よね」


 心底顔をみたくないとか本人いる前でいうなよ。体だけじゃなく心までえぐるとか鬼か、お前は。


「で、どうするのよ? 話から察するに何か考えあるんでしょ?」


 よくぞ聞いてくれた神谷よ。

 当然、策はある。


 俺たちは付き合っているのに、最低限会って話をするだけだ。だから周りからみたら関係性が希薄に見えてしまう。だから恋人だと思わせる事実をつくればいい。簡単な事だ。


 だから、神谷よ。


「デートをしよう」

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