第20話 ムッツリ!そしてオープンへ~?

 白一色の空間。精神世界に、アンドレアス声が響き渡る。


「キサマッ、どんな頭しているんだ!? 幼女に獣人、エルフから魔の者、女であれば見境なしかッ!?」


 アンドレアスはオタの話を聞き、こいつの頭は大丈夫なのかと、心底感じていた。


 オタの語った内容自体はシンプルなものだった。アンドレアスとオタが対峙したダンヘルムの戦い。あの時、無意味と思われたオタの光を放ったあれが全献上と言うスキルだった。内容はオタが先に語ったように、自らの全てを相手へ献上すると言う文字通りそのままのものである。力、魔力、思考、心、価値観などを含む全てを相手に与える事となる。しかも、相手の意志を無視して強制的にである。


 これだけを聞くと、相手を乗っ取るようで実に凶悪で強力なスキルだと思えるだろうが、そうではない。


 力や魔力などはそのまま相手へと与えられるが、それ以外はそうではない。上書きするのではなく、ないモノを相手に与えるのだ。例えるなら幼女や熟女に興味がない男が居るとする。その男に幼女と熟女が大好きな者が全献上すると、献上された男は幼女と熟女が大好きになるという事だ。これは全ての価値観に影響するが、相手の元々の価値観が優先される為、嫌いなモノを好きになる事はない。


 色々と面倒で、相性次第ではデメリットが遥かに勝るダメスキル。しかし、アンドレアスに取っては最悪なスキルであった。


 残忍無慈悲な魔王、アンドレアス。傍若無人な彼の本質は自己中だ。支配欲が強く、暴力的で手段を選ばぬアンドレアス。だが彼は、特に何かを憎んでも居なければ、何かを嫌っている訳でもない。邪魔なモノ、邪魔するモノを嫌い憎むだけだ。支配欲や暴力性などは何の影響もないのだが、それ以外の事に、興味あまり持たないアンドレアスは、オタの価値観の影響をもろに受けてしまったのだ。


 新たに得た価値観に振り回されていたアンドレアス。未だに、その価値観があるにも拘らず理解できていないでいるのだ。説明を受けて、オタという存在が居る事が信じられないアンドレアス。こんな生物が居ていいのかというのがアンドレアスの今の心だ。


 理解できないアンドレアスは更に問う。


「可笑しいであろう!? 違う種なのだぞ? 何にでも発情するんだぞ!! 可笑しいと思わないのか?」


 アンドレアスにしては珍しい、奇妙な見るような戸惑いが見る。


「いやいや、そんな事はないぞ。一部の生物の女性だけだ。その言い方じゃ、俺が石や木なんかの、物にまでするみたいじゃないか!!」


 アンドレアスは衝撃を受け、唖然とする。物すらもその視野に含むとは、考えも及ばない事だった。


 そしてアンドレアスは悟る。


「この話は無意味だ。何処まで行っても並行線であろう。建設的な話しをするべきだ」


 そう、アンドレアスは理解する事、分かり合う事を諦めたのだ。


 それを感じたオタは残念に思う。自分の好きな事を、共感できない事、理解されない事は悲しいからだ。しかし、オタとてこれまで、そんな事はいくらでもあった。否定される事もあるのだ。いちいち落ち込んでいる事は出来ないと口を開く。


「そうだね。すぐには分かってはもらえないよね」

「分かる事はない。永遠にな」


 即答で否定するアンドレアスに、オタは苦笑いする。それは、今は無理かという気持ちからのものだった。


「まあいいさ。それで、俺は色々答えたんだ。次は俺が聞く番だよな?」

「ふんっ、何が聞きたいんだ?」

「そうだな……じゃあ、少し話しをしないか?」


 話しをしようと言うオタ。今は話し合うよりは、アンドレアスの事を知るべきだとオタは考えたのだ。


アンドレアスは、オタの提案に少し考え答える。

 

「構わないが、話した所で愉快な事にはならないと思うぞ」

「愉快かどうかは俺が決めることだぞ、アンドレアス」


 オタはアンドレアスにそう言い、ニヤリと笑う。その様子にアンドレアスは諦めた様に鼻を鳴らした。こうして二人の話は始まった。


 始まりは当たり障りのない世間話から始まった。話は進み、話題は趣味の話へとなった。しかし、アンドレアスは趣味がないと答え、オタが趣味を一方的に話す展開に。アンドレアスはオタの熱気に押され、呆気に取られていた。


 オタは数多くの趣味について語るが、アンドレアスの反応は薄い。オタはそんなアンドレアスに。


「お前な~、もう少し反応っていうか、ノリっていうか、ないの? 普通、もうちょっと興味もたない? 本当に今まで、趣味とかなかったのか!? 何を楽しみに生きて来たんだ?」


 オタの生きて来た事を否定する様な物言いに、アンドレアスは苛立った。


「キサマにとやかく言われる筋合いではない。それに趣味が無くとも、楽しみはある。自分の描いた様に物事が進むのは愉快だ」


 アンドレアスはそう言い悪い笑みを浮べた。それを見てオタは感じた。それは今まさに進行中の人族の領土への進行だろうと。


 そしてオタは気づく。アンドレアスには心がないと。正確に言えばあるのだが、話していて分かった事だが、アンドレアス物事に対して余りに無関心過ぎる。人や生物、物に至るまでに興味が無く、効率的に物事を進めている様にオタは感じていた。アンドレアスは自分の中で完結していて、人との接点が支配欲と思い道理に物事を運ぶ為の道具としてしか存在してないようなのだ。


 サイコパス。地球ではこの様な者はそう呼ばれる。アンドレアスはそう呼ばれる者中でもかなり危険な部類だろう。彼は言っていた。滅ぼすか、滅ぼさないかの選定基準は役立つかどうかだと。人族でも魔の者どちらでもいいのだと。その事からアンドレアス自身が、双方のどちらにも関心が無い事が伺えた。


 オタは内心でとんでもない奴だと思う。他者に関しない事から、自らの欲望と価値観のままに進み続ける怪物。その圧倒的な力で他の存在の意志を無視し、己が意志を世界に押し付け、食物連鎖すらも破壊しようとしている存在だ。唯一の救いがあるとすれば、本人に悪意が無い事だろう。


 これまで会話で分かる事だが、アンドレアス自身、人族に対して憎しみを感じる事はない。いや、どの種族に対しても感じられない。アンドレアスは、自身の目的の妨げや邪魔な者は別として、それ以外の者には迫害や憎しみはといったものが薄いと言える。もしくは興味がないのだろう。


 とんでもない相手だが、オタに取っては好都合な事だった。


 そのはずだったのだが、今の状況にオタは頭を抱えていた。


 アンドレアスは全献上の効果でオタの価値観の影響を受けているはずなのだ。多くの事に感心を持たないアンドレアスは、全献上の効果が最も大きく発揮する相手なのだ。しかし、オタが自身の多くの趣味を語ったにも関わらず、アンドレアスの反応が薄いのだ。


 オタの価値観の影響を受けているので有れば、趣味の話に食いつかないのは可笑しいのだ。実は自分が、これまで好きと思っていたが本当は好きじゃなかったのかと、バカな事まで考え出していた。


 しかし、このままではいけない。何か話さなければとオタは、最後の切り札を切る。


「お前根暗だな~。孤独主義者か? 俺も友達少ない方だけど、ボッチは辛いぞー。コミュ二ケーションには共通の話題が必用なんだぞ。アンドレアスの場合は……女の話とかどうだ!  お前にやられて、はだけたアテネは良かったよな。ナイス魔王! 見えそうで見えない、そこに痺れる憧れる! そう思うだろう!?」

「ふんっ、知らん!」


 知らんと興味なさそうに言い放つアンドレアスだが、先ほどと違い、興味がある事が丸わかりである。 


「なんだ、お前ムッツリか!?」

「キサマ余程死にたいらしいな!」


 そう言い、怒りを露わにし鬼の形相浮べるアンドレアス。オタは慌て取り繕う。


「まてまてッ! 大丈夫だ! 最初はムッツリが多いんだ。大人の階段を上ると、オープンになる者も多い。まだまだ、慌てる時間じゃない! 大丈夫だ」


 取り繕うが、何の取り繕いにもなっていないオタ。アンドレアスは、どうしようもないオタに呆れ。


「時間を無駄にした。話はここまでだ」


 アンドレアスはそう言い、オタに背を向けた。歩き出しオタから離れて行くアンドレアス。


「アンドレアス、またな」

「ふんっ」


 アンドレアスは振り向く事無く離れて行った。


  

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