第15話 魔王様、性欲を知る!

 突然、心ここにあらずといった様子で可笑しくなったアンドレアス。しかし、本人がなんでもないと言った為、ミラや姉妹はアンドレアスの事を気にしながらも、アリスが落としてしまった食器などを片付けていた。


 アンドレアスは混乱していた。取り繕うとしても取り繕えない程に。ソファーに深く掛け直した時に感じた違和感。アンドレアスの下半身の大事な場所が膨張していたのだ。


 アンドレアスはこれまで一度も性的な興奮を感じた事は無かった。それが誇りであり、それこそが最強の証だど、少なくともアンドレアスは考えていた。


(なぜ、なぜ、今なのだ!? なぜ立っている!?)


 生物にとっては当たり前の事。だがアンドレアスにとってはそうではなかった。


 アンドレアスの持論では、種として弱い生物が繁殖力に優れる。ゴブリン等の弱小魔物だ。アンドレアスから見れば人間とて繁殖力は高い。人間より長い時を生きるエルフとて人間に比べれば繁殖力は弱く、魔人、バンパイア、龍族などの上位種ともなれば、さらにその繁殖力は弱いのだ。その事からアンドレアスは、弱く死が身近な種や死期を感じ始めた者が、種を残す為に本能により発情するものだと考えていた。


 そう考えるアンドレアスにとって、発情しないという事は種として優れている事を意味し、自身も発情した事がなかった為、そうであろうと、その持論を気に入っていた。


 そんなアンドレアスにとっては、自身が発情しているというのは認めずらく、納得しがたかった。


(バカな、ありえない。この俺の本能が死を感じているとでも言うのか!?)


 もちろん発情したかといって死期が近いなどという様な事実は存在しない。しかし、そう思っているアンドレアスは考える。一体何が起きているのか? なぜ、こんな事に成っているのかと。


 そう考えていたアンドレアスはある事に気づき驚愕の表情を浮かべる。彼は気づいてしまった。幼女の下着を見て発情していたという事実に。


(魔王である俺が幼女の下着で発情したというのか? いやいや、何かの間違いだ。そんな事はありえない。いや、あってはならない! 何か別の要因があるはずだ!)


 考えるアンドレアス。しかし、自身がアリスの下着を凝視していたという事実が、その可能性を濃厚にしていた。そして、それを否定する要素を持たなかったアンドレアスは、


(……この俺がアリスの様な幼女に興奮する変態だというのか!? ん! という事は聖女を見て固まったのも鼻血が出たのも発情したからなのか!?)


 自問し続けるアンドレアス。発情というキーワードにより不可解だった全ての出来事が繋がっていく。


(イザベラの色香に耐えきれずに興奮して、鼻血を噴いて倒れたという事か! んなアホな話があるか。一度の敗北もなかったこの俺が、よりにもよって部下の色香にやられて全軍撤退とかマヌケ過ぎるぞ。す、全てを闇に葬るしかない)


 アンドレアスがそう考えるのも仕方ないだろう。遥々大軍勢を引きつれ、人族の領土に進行して来たのだ。その張本人が部下の色気にやられての撤退など前代未聞である。まさに黒歴史。そもそも行軍自体がアンドレアス独断であり、否定的であった者さえ強引に引き連れて来ているのだ。それを、そんな理由で撤退したと知られれば、幾らアンドレアスが恐れられていようとも、抗議する者は現れるだろう。もし仮に現れなかったとしても、魔の者たち全ての冷たい視線を受ける事は明確だ。


 そんな事になればアンドレスの名声は地に落ち、魔の者たちから信頼を失い、アンドレアス政権は……力で抑えてけている為、特には意味ない。だが、アンドレアスは恐れられて避けられるのは強き者の宿命と考え、誉れとさえ思って気にすらしないが、しかし、軽蔑され避けられる事は我慢ならないのだ。


 全ては自身の沽券とプライドの為に、闇に葬る事を決めたアンドレアス。その為ならば多少の犠牲も厭わないという、魔王らしい考えだった。場合によっては一、二国を亡ぼす事も想定済みなアンドレアス。黒歴史の為に、国すら亡ぼそうと考える実に迷惑な魔王であった。


 黒歴史の問題への対応を考えたアンドレアス。しかし、それでは根本的な解決にはならない。今のおかしな状態、発情をどうにかしなければ、黒歴史は生れ続けるのだ。


 アンドレアスはこのおかしな状態について思考した。そして閃いた。


(軍医だろ! 体の異常なんだ。医術なら解決できるはずだ!)


 実に当たり前な事を閃いたアンドレアス。そもそも、発情しているのが生物としては健全なのだが、生まれてこの方発情した事のないアンドレアスは気づかない。


 名案が閃いたと、医術に勝手な期待を膨らませたアンドレアスは、ミラにエリスとアリスを空いた部屋で休ませるよう指示し、軍医を呼ぶようにと伝えるのだった。    

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