第8話 魔王の目覚め

 アンドレアスはベットの上で目を覚ました。周りにはイザベラ、少し離れて軍医たちが控えていた。アンドレアスは辺りを見回し、ココがアルテール城だと気づく。アルテール城は魔王軍が侵攻の際に攻め落とした、人族の都の一つだ。現在は魔王軍の前線基地となっている。


「魔王様お気づきですか!?」


 心配しアンドレアスを覗き込む様に尋ねるイザベラ。そんなイザベラにアンドレアスは尋ね返す。


「なぜ俺はアルテールに?」


 自分がなぜ、アルテールにいるのか分からないアンドレアスが尋ねると、イザベラが説明を始めた。アンドレアスは自分が倒れ、その後魔王軍が撤退したことをイザベラに聞かされた。


「すまなかったな。迷惑をかけた」

「いえ、その様なことは……それで、そのーお体の方は大丈夫なのでしょうか?」


 不安そうに体調を尋ねるイザベラ。その理由は軍医たちの診断にあった。


 アンドレアスは倒れた後、アルテールに運べれ、軍医たちによる診断が行われた。しかし、何の異常も見つからず、鼻から血を流した原因も、突然意識を失った理由も分からなかったのだ。つまりは原因不明。


 この無能者共が、魔王様が倒れたのよ。原因不明ですって。どんな勇者の攻撃に晒されても、倒れる事がなかった魔王様が倒れたのよ。原因が無いなんてありえないのよ。未知の病気、あるいは呪いということも……というのがイザベラの心情だった。


 アンドレアスは不安そうに尋ねるイザベラを気にする様子なく、確認する様に軽く体を動かし。


「特に問題はない。皆の者下がってよいぞ」


 アンドレアスがそう口にすると、軍医たち早々に動き出す中。


「お待ちください魔王様。まだ――」


 口を開いたのは納得のいかないイザベラ。だがアンドレアスが、そんなイザベラの言葉を遮る。


「下がれ!」


 底冷えする様な冷たい視線を向け、低い声だった。イザベラは顔を青くし、それ以上何も言う事なく退室した。


 誰も居なく部屋で、アンドレアスは考える。それは倒れる前に感じた顔の火照りと意識の低下についてだった。


(あれは何だったんだ? 攻撃だったのか?……急激な思考の低下と高揚感……聖女から目を放すことが出来なかった。攻撃にしては、効果がよくわからん。その後倒れた事まで考えれば意味はあるのだろうが、倒れた後に何もなかった事が理解できん)


 攻撃であるなら、倒れた時に襲撃しなければ意味はない。これが攻撃で有るのならば、勇者たち80人とアンドレアスが対峙した時こそ、使うべきなのだ。そのタイミングのおかしさから、アンドレアスは答えを出すことが出来なかった。


「まあいい。攻撃であれば、また仕掛けてくるだろう。その時はその尻尾を掴んでくれる」


 考え終えたアンドレアスは部屋を出る。アルテール城内を散歩がてらに歩くアンドレアス。そんなアンドレアスの耳に女の悲鳴が聞こえた。普段から聞き慣れたはずの悲鳴。しかし、アンドレアスはこの時、不快感を覚えた。


 アルテールは二重の城壁に覆われる強固な城だ。一番外にある第一城壁。その中には街があり、街に必要とされる施設が存在する。だが、魔王軍に占拠された事で、その機能は失われ。至る所で魔王軍が寝泊まりしていて巨大な野営地といった様子である。そして城の周りにある第二城壁がある。


 声は、その第二城壁の外からだった。アンドレアスは舌打ちをして走り出す。走るアンドレアスの姿を遠目に見た者たちは驚き、擦れ違う者は慌て頭を下げる。中には謝り出す者までいる。そんな者たちを無視して、第二城壁の階段を駆け上がったアンドレアスは下を覗き、声の発生源を探す。


 そこには、兵たちに囲まれた銀髪の幼女と少女の姿があった。

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