第7話 魔王軍の撤退!
アンドレスが倒れ、叫ぶイザベラ。イザベラが倒れたアンドレスを抱きかかえ、悲痛な表情で魔王の名を呼ぶ。その光景に騒然となる魔王軍。
「静まらんか! バカ共が、急ぎ軍医を連れて来んか!」
皆が混乱する中、そう怒鳴ったのはローブに身を包む細身の男だった。男の指示で兵たちが急ぎ軍医を呼びに向かう。魔王軍が混乱する中、冷静な彼こそ、四天王の一人で、その名をカノン言う。カノンは指示を終えると、アンドレアスを抱き、呼びかけ続けるイザベラの肩を掴む。悲痛な表情を浮かべた彼女がカノンを見る。
「落ち着かんか」
カノンは落ち着せ様とイザベラにそう声を掛ける。しかし、冷静さ失ったイザベラ届かかない。それどころかカノンに助けを求め様に。
「カノン、魔王様が魔王様が――」
冷静ではない彼女の肩を強く揺すり、怒鳴るカノン。
「しっかりせんか、イザベラ!」
カノンは被っていたフードを外す。そこにはあったのは肉のない骨の顔だった。フード外したカノンはかがみ、視線を高さを合わせ、眼球の代わりにその奥で赤く光る眼で、イザベラを見つめ。
「四天王であるお前がそんなことでは、兵たちはますます混乱じゃろうが。こんな時こそ、ワシら四天王がしっかりせんでどうする。」
冷静にイザベラを諭すカノン。彼は肉を失った亡者、リッチだ。その名を古き時代から歴史に刻み、現在に至るまで英知を示し続けた。そんな彼を魔の者たちは、賢者カノンと呼ぶ。
カノンに諭す様に言われたイザベラは辺りに居る兵たちを見渡し。
「そうね。悪かったわねカノン」
「なーに、気にするな。分かればええんじゃ。軍医は呼んどる、すぐに来るじゃろう」
「えぇ、わかったわ」
二人が話し終えるとすぐに、血相を変えた軍医たちやって来た。急ぎアンドレアスの容態を確認しながら、回復魔法を掛け続ける軍医たち。しかし、依然としてアンドレアスの意識が戻らず、苛立ったイザベラが尋ねる。
「魔王様の容態はどうなの!?」
「そ、その外傷的なものがなく、その何とも……」
原因が分からずに、申し訳なさげに言う軍医に、イザベラは舌打ちする。その様子に怯える軍医たち。何も言わないが彼女の表情が言葉にせずとも物語っていた。使えないと。
「もういいわ。誰か至急、飛竜ヴェルアールを呼んできなさい!」
イザベラがそう指示を出すと兵の数人が駆け出して行く。カノンがイザベラに尋ねる。
「どうするつもりじゃ?」
「撤退するわ!」
イザベラが迷いなく即答する。カノンが少し考える素振りをして「うむ」と口にするとイザベラは続けた。
「一度アルテールまで引きます。魔王様がいれば人族なんていつでも滅ぼせるわ。大事なのは魔王様の御身よ。」
「うむ、そうじゃな」
「私は魔王様とヴェルアールで先に戻るわ。撤退の指揮はカノン、あなたにお願いします」
「わかった。撤退の指揮はワシが引き受けよう。じゃが、お主一人だけでは対応できん事もあるやも知れん。レイティアを連れて行け。魔王を頼んだぞ」
「わかったわ。任しておいて」
イザベラが了承すると、カノンは鎧を着た少女へと振り返り。
「そう言う事じゃ。レイティアよ、頼んだぞ」
カノンがそう言うと、一人の少女が前へと進み出て来る。
真紅の鎧を身に纏う金髪の美少女だ。名はレイティア・ブラット。異常に白い肌に、赤い瞳を持つ彼女の種族はバンパイア。真面目でそうで気の強い印象の彼女も四天王の一人だ。バンパイアである彼女は、その見た目通りに若く、四天王の中で最も若い。
進み出たレイティアは宣言する様に言った。
「この身命に代えても、必ず魔王様をお守りします」
「うむ、任せたぞ」
レイティアの答えにカノンが満足し返すと、辺りに影が差した。日の日差しを遮るのは空飛ぶ巨大なドラゴン。ドラゴンは急降下し降りて来る。魔王たちの前へと降りて来ると。
「どうした魔王。何か用か? んん、魔王はどうした? なぜ倒れておる?」
ドラゴンはアンドレアスが倒れている事に気づき、不思議そうに覗き込む。
「原因は分からないわ。急ぎアルテールに戻りたいの。私たちを運んでヴェルアール」
「承知した。乗るがいい」
ヴェルアールが承知すると、アンドレアスを抱いたイザベラとレイティアが、その背へと駆けあがる。ヴェルアールの背に乗たイザベラがカノンに声を掛ける。
「カノン、後は任せたわよ」
「うむ、任せておけ」
カノンが答えると、ヴェルアールは背にある大きな翼を羽ばたかせる。ヴェルアール巨大な体が宙に浮き、空を飛びこの地を後にした。
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