第3話 魔王と勇者たち 蹂躙

 本陣を守る兵たちを薙ぎ払いながら進む勇者たち。未だ目指すその先には、多くの兵が立ち塞がっていた。そんな兵士たちが左右に分かれ道が開く。開いた道をアンドレアスがローブに身を包む細身の男、妖艶な女、鎧を着た少女の三人を引きつれ歩く。突然の状況の変化に警戒して、険し表情で様子を窺う勇者たち。


 アンドレアスは、そんな勇者たちに一定の距離まで近づくと足を止めた。


「我が名はアンドレアス。魔の者たちを統べる魔王である」


 アンドレアスが名乗ると勇者たちに緊張が走る。そんな中一人の勇者が進め出ると。


「そうか、お前が魔王か。これまでの悪行、ここで償ってもらうぞ」


 勇者はそう言い、怒りを宿した瞳でアンドレアスを睨み、武器を構えた。だが、武器を向けられたアンドレアスは警戒する事もなく、薄笑みを浮べながらわざとらしく首を傾げ、


「さて、何の事かな?」


と言い恍けた。そのふざけた態度に勇者が怒鳴る。


「ふざけるな! この外道! 貴様のせいでどれだけの人が死んだと思っているんだ。あんな惨い事を……お前は人の命を何だと思っているんだ!」

「お前は、魔王である俺が人の命に何らかの価値を感じると思うのか?」


 挑発的な笑みを浮べたアンドレアスが答えると、もはや我慢の限界となった勇者が叫び、魔王目掛け走り出す。


「お前の様な奴がいるからッ!」


 走り出した勇者は凄い速さでアンドレアスに迫り、剣で斬り掛かった。しかし、アンドレアスはその剣先を素手で掴み無力化した。勇者は剣を素手で止められ「なにッ!」と驚きの声をあげる。アンドレアスは、そんな勇者を指さす様に一指し指を向ける。その指先がピカッと光ると、勇者の胸に風穴が空いた。


 勇者が口から血を吐き、力なく倒れる。勇者たちの中から、様々な動揺の声が響く。


「アルッ」

「アルベルト」

「うそ!?」


 様々な声が響く動揺の中、倒れた勇者アルベルトのパーティーメンバーたちだけが動いていた。


「よくもアルをッ!」


 叫ぶと同時に、両手に握られたダガーで斬り掛かる女盗賊。アンドレアスは襲い掛かる女盗賊に手をかざす。手から衝撃波の様なものが放たれ、斬り掛かる女盗賊を吹き飛ばす。


 その光景に、女盗賊と同様にアンドレアスへ迫っていた戦士の男が、足を止める。振り返り、仲間である女盗賊を見る。倒れてピクリとも動かぬ仲間の姿に、男の表情に動揺が浮かぶ。


「どうした? 掛かってこないのか?」


 立ち止った男に、挑発的な笑みで、声を掛けるアンドレアス。男の顔が、鬼の様な形相へと変わり、叫びアンドレアスへと斬り掛かる。


「貴様ぁッ! うおぉぉぉっ!」


 雄叫びと共に人の等身ほどもある大剣が振り下ろされる。アンドレアスが片手で大剣を受け止める。受け止めた事でズッシンとした重い音が鳴り、大気が震える。受け止められた大剣をそのまま振り下ろそうと男が力を込める。


「はぁぁぁぁぁッ」


 アンドレアスは、そんな男を哀れな者を見る様に眺め。


「バカか、貴様は。聖剣や魔剣の類ならばともかく。こんな堅いだけの剣がこの俺に効くとでも思ったか!?」


 言い終えると同時に、アンドレアスは受け止めた大剣を握り、力を込める。パキィィンと大剣が音を立て砕ける。驚きの表情を浮かべる男。そんな男の顔をアンドレアスが殴りつける。歪む男の顔、首が可笑しな方向へと曲げ、地面を転げて行く。


 勇者アルベルトが一撃で殺され、そのパーティーメンバーもが成すすべなく倒されるという事態。あまりにも予測外な展開に驚愕の表情を浮かべたまま、動く事の出来ない勇者たち。


「ふむ、そちらから来ないのであれば、こちらから行かせてもらうぞ」


 アンドレアスがそう口にしてから、始まったのは、もはや戦闘と呼べるものではない、ただの蹂躙であった。次々と倒れて行く勇者たち、そのあまりの一方的な展開に、友軍である魔王軍の兵士までが顔を恐怖で歪まし、アンドレアスに付き従っていた者たちでさえも驚きを口にする。


「す、すごい……」

「強いと思っておったが……よもやこれほどまでとは。賢者と呼ばれるこのワシの予想の上を行き、何度となく上方修正を加えた今でも、ワシは魔王を過小評価していたという事か!? どこまでも恐ろしい男よ」


 目を見開き信じられない見るような鎧を着た少女。まるで舞台俳優の様にオーバーなアクションで驚きを表現するローブに身を包む細身の男。そんな二人の横で、妖艶な女だけが、


「すてきですわ魔王様。さすがは魔王様」


と、うっとりした様子でアンドレアス見つめながら呟いていた。

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