第8話 転校生で騒ぐほどガキじゃ無い、でも本当は騒ぎたい。

《現実》

志郎の朝は早い。

それもこれも皐月のせいだが、自分の行動を誰かのせいにするのは負け犬のする事だ。

俺はやりたい様にやっているのさと誰に言うでもなく呟き身を起こす。

性悪女の様にまとわりつく掛け布団を押しのけると、相棒の暴れん坊が『俺の出番はまだか』といわんばかりに主張していた。

俺達が本気になるのはまだ先だが、必ずお前の活躍の場を用意してやる。そう新たに決意すると、相棒は元の品行方正さを取り戻した。


身体が少し重い。カフェインを欲しているが、峻烈な朝日こそが一番の薬であろう。

カーテン越しにもわかるほど太陽はご機嫌だ。

俺は勢い良くザッとカーテンを開けた。

 


そしてハードボイルドな時間は幕を閉じた。



「あらっ、シロウ奇遇ね」

窓の外に皐月の笑顔。正確には向かいの家の窓に皐月の笑顔。

「おはよう、気持ちの良い朝ね」


「そうだな。こんな日はゆっくりと朝飯を食べて学校に行くとしよう、後でな」

平静を装いカーテンを閉めると、急いで着替え、階段を駆け下りる。速い!着替えも階段も自己ベストだ。

皐月はパジャマを着ていた。朝の用意で男子の自己ベストに勝てるものか。


「行ってきます」

家族への挨拶も忘れない。完璧だ。


「さあ、行きましょうか」

ドアを開けると制服を着た皐月が迎えた。



皐月と一緒に真司を迎えに行くと、出てきた真司はおはようと爽やかに言うだけだ。

一人で行くと行ったよな!と罵られた方が楽。

皐月と真司はトナアオの話をしているが、参加する気にならない。


美男美女の2歩後ろを歩くフツメン。気持ちはドナド◯だ。

不幸中の幸いか、朝早い為に他に誰もいない。

もし誰かに見られたら、美男美女の邪魔をする馬鹿がいると誰もが思い『空気読めよ』とか『分をわきまえろ』とか散々に言われるに違いない。



◇皐月視点


やっと志郎を捕まえた。いつもより1時間早く起きて用意し、制服の上からパジャマを着て、カーテンが開くのを待っていたのだ。努力は正しく報われたが真司君が邪魔だ。

皆んなが言うイケメンなら空気を読もうよ。

あなたと話したくてトナアオをしている訳じゃないよ。


口に出しそうになるが、長い付き合いになった猫被りの愛猫が本能のままに行動する事を妨げる。私の中で異常に肥大した猫。この猫は志郎が嫌いだ。元々は母親の猫であったはずだが、母親の死とともに私の中に移り住んだ。


もうすぐ学校に着いてしまう。


校門の端に他校の制服を着た小柄な女の子が1人立っている。ショートカットに大きな瞳。女の自分から見ても可愛い。

嫌な予感がする。彼女の大きな瞳は私を擦り抜け、後ろにいる志郎を見ている。


「あれっ、ひょっとしてカスミか?」


「シロウさんですか?」


2人の言葉を聞くと、私の中に電流が走った。



◇志郎視点に戻る


「転校生の雛菊 香澄さんだ」

先生がドヤ顔だ。

可愛い転校生。現実にはあまりお目にかかれない存在。転校生という高いハードルを軽々と超え、どうだ!と紹介された香澄は顔を真っ赤にして完全に下を向いてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る