第7話 良さそうな やつはだいたい 人見知り

「いやーこの酒は良いぞ、シロウ殿。この酒は良いぞ」

ヒナギクさんはご機嫌だ。


「ヒナギクさん、あまり飲んでは駄目です」

やっと発言した女の子の声にドキドキだ。可愛い子は声までいいね。

「いや申し訳ない」

と言いつつ杯を口に運ぶヒナギクさん。


しかし、本当に美味しそうに飲むよな。

「ヒナギクさん、いつでもとは言いませんが、たまに来ていただいて良いですから、あまり飲み過ぎない様にして下さいよ」


「おお、シロウ殿は良い男じゃ!カスミよ、偽りはやめだ。この簡雍、酒に不義理はできん!」


「ええっ!」

と驚いた振りをする。途中からシロウ殿と呼んだりするし、酒好きだから、三国志の酒好き文官である簡雍じゃないかと疑っていた、ビンゴだ。


「ほらカスミ、ちゃんと挨拶せんか」

簡雍に促されているが、カスミはモジモジモジモジ。

シロウが見ていたせいだろうか、簡雍の背中に隠れてしまった。


「シロウ殿、気を悪くせんでくれよ。カスミは人見知りでな」


「そうでしたか、近くの村が私でガッカリされていなければ良いのです。カスミさん、改めて自己紹介すると、俺は高校一年生でシロウです。出来れば仲良くして下さい」

そう言ってペコリと頭を下げる。


「カスミです。私で良かったら仲良くして下さい。高生一年生です」

カスミは赤い顔でそう言うと、また簡雍の背中に引っ込んでしまった。


いやー可愛い。気を許せば顔がニヤつく。ニヤつくとカスミは嫌だろうから、太腿をつねりキメ顔だと信じている顔をキープする。


「自己紹介は終わったな。早速シロウ殿に質問がある」

そう言う簡雍の顔は先程迄の腑抜けた表情ではない。


「シロウ殿の村は面白いな。畑は大きいがそれ以外は何もない村に見えるのに、酒がある。ひょっとして酒が名産品か?」


「ストープッ。シロウ、ハウス!」

俺は犬じゃないし、ハウスは『家に入れ』だ。ムースカこそ『マテ』が出来ない奴だ。


「何だよムースカ。もう来たのかよ」


「シロウ、情報は気軽に言うもんじゃないぞ。それにシロウの酒の入手方法はイレギュラーで他の人が出来るものではない。ひとえにこのムースカの力だ」

秘密にして欲しいのか? 讃えて欲しいのか?


「すまん。無理に聞くつもりはないのだ。酒好き故に出てしまったのだ。許して欲しい」


「いえ良いのです、お酒の件は言えないですが、隠し事をするつもりはありません。名産品は鉄鋼石です」


「鉄鋼石ですか良いですな。カスミの村の名産は羊毛です。野生の羊の群れを見つけまして、飼っているのです」


そこまで言うと、簡雍は背中のカスミに向き直り、何か喋った。

「コソコソと話してすみません。これ以上話して良いかとカスミに聞いたのです。シロウ殿、我々の村と同盟を結びませんか?」


「同盟ですか?勿論有難い話ですが、同盟とはどういうものでしょうか」


「同盟を結べば、双方で決めた期間は争う事が出来ません。いや、争う事は出来ますが、同盟破りの村は誰からも信頼されずに破綻するでしょうから、普通に考えれば同盟は破れないのです。ムースカ殿、何か説明足らずが有ればお話し下さい」

簡雍はムースカにも聞けと配慮を示す。


「いや無いな、付け足すので有れば、互いの村の発展の為に同盟を結ぶべきだな」

あれ?ムースカがまともだ。簡雍の酒に伸ばしていた手を引っ込めながらでなければ、より良かった。


「カスミさん、俺で良ければ同盟を結んで下さい」

触りたい。その下心満載で右手を出す。


「こちらこそ、宜しくお願いします」

カスミは俯きながらも、左手を差し出した。

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