第2話 契約(完了済)
「まったくお主は……憶えておれよ。よもや《氷獄の
「いや、さっきのはアンタが自分で俺の下に飛び込んできたんだろう!? 死にかけた人間を助けるなんて、ひょっとして結構いい奴なのか、あんた?」
そんな言葉をクルトは返すが、黒い小さなモヤは、カカァッという風に熱気があがり、炭火のように何やら赤くなっていく。
……オイ。もしかして照れてるのか? 安い地獄の王だな。
しばし呆気にとられたが、青年は一騒動を終えて、焦っていた気分が霧散してしまった。まだ日が昇るまでに時間はあるし、足の速さでは同業者にすら負けたことがない自分だ。トボトボと歩いていっても『リラ』の街には問題なく着けるだろう。
尻もちをついていた姿勢から、クルトは立ち上がって尋ねた。
「そう言えばさっき……気になることを言ってたよな、あんた。たしか“俺はもう助からん”とか……」
「ん? “欲しいものは何でも手に入る”という話か? 儂はたしかにそのような力を持っておるぞ?」
いや……。何シレッと良い情報だけをこっちに吹き込もうとしてるんだよ。
「エノーラって言ったっけ? あんたも、悪魔みたいな存在が契約にウソを言っちゃあ駄目だろう。命なんぞを代償に要求するからには、それなりにハッキリした契約じゃないと、効力を発揮しないはずだ」
くっ、とその黒モヤの女は呟くと、今回の
ほっとけ。下層階級の人間は、騙されたやつが泣き寝入りになるような社会システムになってるんだよ。
「う~ん、そうじゃのう……」
エノーラと名乗った女は、しばらく考えたあと、やっとまともな話をはじめていた。
「儂は、《
こっこっこ! とその女は
うう……なにこのバイブ機能付きの化粧道具。気持ち悪い。
「儂はその、満足して解放されたお主の欲望を喰らうのよ。人間は
恐ろしいことをサラッと言って、エノーラは話を終えていた。あとは、細かい契約書がコンパクトの中に入っていることを付け足して、煙は消えてしまった。
「て、てめえ……!」
そんなものがあるんなら、最初から言えってんだ。
適当な説明を聞かされて、二度手間になったクルトは、そばにあった古木にもたれていた。
『国』や『世界』だって滅ぼせる、人間がひれ伏したくなるような力だって……?
胡散臭く思いながら、その小さな化粧ケースを開き、中を確認しようとしている。
「!」
もちろんそこには、
折りたたまれ、乱雑に文字が書かれた一枚の紙の下から出てきたのは、息を呑むほどに美しく、秘めた光にゆらめいているような、
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