第33話
「おっと、これ以上は…… 行かせない」
ドン・マダーはさっきまでは見せていた余裕が今はもうなかった。片目を潰されたからだろう。どことなく、銃を持つ手元もふらついている。
「お前らよくも俺の目を潰したな…… 。俺はお前らを絶対に許さない。だから、お前らの船を壊してやったよ。ざまあみろ!! あはは!! あは…… 」
ドン・マダーの狂った言葉は途切れ、彼は事切れた。アリスがドンの胸を撃ったからだった。アリスの目は達成感と疲れに満ちている。
「あんな、ろくでも無いやつを殺すのは大人の仕事だ」
彼女の言葉には重みがあった。
ドンの遺体を船の側から退けたあと、俺とレイとアリスは急いで、セイジの応急手当てをした。幸いまだ生きていて、あとは意識の回復と適切な処置をすれば大丈夫そうだった。問題は船だ。
「いろいろな回路が銃で壊されている…… 」
レイは船の航行に必要な装置を壊れていないかできる限り確認したが、ドンが先に船の装置を破壊していたようだった。
「ダメだ。急いで直してもそんな長くは飛べない」
「そんな…… 」
俺は思わずこう言ってしまった。アリスは何かを考えているようだった。沈黙の末に、アリスが口を開いた。
「…… 今すぐにさっき教えた座標まで飛べ」
「どうして? 今の状況じゃあの座標までは行けないよ」
「今飛ばないと、コントロールを失ったドンの部下たちが殺しに来るぞ! 」
俺とレイは何も言えなくなった。レイはその言葉を聞いて急いで船をできるだけ修理することにした。レイが修理をしている間、俺とアリスはドンの部下たちが来ないかを外で見回った。アリスによると、村のみんなと海賊たちの戦いは未だに続いているようだった。アリスは俺たちが出発してから激戦地に戻って、止めに行くという。
「終わったよ! 」
レイの声が聞こえたので俺は船に戻ることしたが、その前にアリスが俺に声をかけてきた。
「大丈夫だ。お前らはきっと生きて帰れる。……あばよ」
アリスはその言葉を俺に残して、元来た道を戻り始めた。
俺は急いで船の操縦室へと入った。レイは深刻な顔をして計器を操作している。
「あと一回ワープしたら、この船は完全に壊れる」
レイの言葉には深刻さがあった。レイによるとこの船の装置を完全には直せなかったので、あと一回ワープして、うまくいかなかったら船が壊れて宇宙空間でバラバラになるかもしれないということだった。この周りには混乱した海賊たちがいる。このまま、この場所に居ても死ぬ。一方で、船を飛ばしても死ぬ確率が高い。だったら、答えは簡単だった。なんとしてでも生きてやる。
「飛ばしてくれ」
「えっ…… 」
レイが驚いた顔をする。それでもすぐに、レイは返事をした。
「いいよ。行こう」
決死のフライトが始まろうとしていた。
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