第32話
船はドンの部下だけを狙って正確に撃っている。俺はようやく理解した。あれはアリスの船だ。どうやら間に合ったようだった。船は水平になって、何人かがロープを伝って降りてきた。降りてくるなり、何人かは俺たちの方に駆け寄ってくる。よく見るとその一団の中にアリスがいた。
「どういう状況だ! 」
アリスが走りながら叫んだ。俺たちの側にたどり着く。俺たちは岩の裏に再び隠れた。俺はアリスに答えた。
「セイジが撃たれた。船に戻って手当てをしないと! 」
「そうか…… 」
アリスは何かを考えているようだった。周囲は戦況が読めない程に混乱している。
「お前、ええとレイ、エドから貰ったデバイスがあるだろ? 」
「うん。あるけどどうして? 」
「いいから、見せろ」
そう言われてレイは急いでアリスにデバイスを渡した。アリスは手に取るなり、デバイスを起動せずに裏に取り付けられた部品を眺める。アリスはなぜか微笑んでいる。
「これは返す。今からそのデバイスにメールを送る。簡単なメールで、ここから一番近い宇宙ステーションの座標を書いておく。お前たちは自分の船に乗り込めたらすぐにこの座標までワープしろ。いいな」
「わかった」
俺はアリスに了解した。レイもそれに応じる。
「船の前まで援護する」
「頼む」
「行くぞ」
アリスが合図すると、俺たちは一斉に走り出した。すぐにドンの部下が俺たちに狙いを定めるが、そこはアリスの仲間たちが援護射撃で応戦してくれた。俺はセイジを担ぎながらレイと共に戦場を走り抜ける。村のみんなとアリスたちがドンの部下たちと命がけで戦っている中を全力で、必死で走った。これが生きるということなのだろうか。頭の中に人生で初めて走馬灯というのが流れる。
何とか、激戦地を潜り抜けた俺たちは急いで船の前まで道を急ぐ。それでも、ドンの標的は俺たちであることに変わりはなく、部下の何人かが走って追いかけてきた。アリスとその仲間たちはそれに応戦しながら、俺たちを守っている。途中でアリスの仲間が一人、また一人と離れて行く。ある者は足を撃たれ、ある者はドンの部下を足止めするために列を抜けた。ついさっき会ったばかりの俺たちを守り抜くために彼らは全力を尽くしている。
「どうして、僕たちのためにここまで戦ってくれるの? 」
レイが走りながらアリスに尋ねた。彼女は特に考える様子もなくすぐに、
「お前たちには、何でもできる未来がある。その未来が無くなったら、俺たちが悔しいからだ。だから、戦う」
と答えた。俺はその言葉を聞いて、自分にはまだ希望が残っていることを知った。
俺たちの船の前にようやく着いた。俺たちは一瞬安堵したが、すぐにまだ脅威が残っていることに気がついた。船の前には、潰された片目を手で押さえ、もう一方の手に銃を持っている、ドン・マダーが居た。
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