第10話

 再び椅子に腰掛けた俺たちはこの船の名前を考えはじめた。それぞれが名前を頭の中で考えているために数分ほどの沈黙が続いた。


「アンカー」


 最初に声を上げたのはセイジだった。


「いや、まんまでしょ。だめ」


 即座にレイが却下する。またしても沈黙。練り直す。時間がさらに過ぎていき、俺は家から持ってきた辞書から使えそうな単語を探す。二人に目をやると、二人もそれぞれデバイスや辞書を取り出して眺めていた。


 俺は単語をひたすらに探す。派手な言葉や難しい言葉を当たってみるが、いまいち腑に落ちない。探す。ひたすら探す。ページをめくる瞬間、ある言葉が目に留まった。これだ。俺はこの言葉が気に入った。すぐに俺は二人に声をかけた。


「runaway」


 二人が当惑する。俺は押し返すように、


「逃げるって意味だけどさ、でも、俺たちのこの旅に合ってる言葉だと思わないか」


 と息巻いて言い切った。


「……、いいぞ、それ! 」


 セイジがまず共感してくれた。続いてレイも同意したらしく、頷いていた。


「よし、この船の名前はランナウェイで決まりだ」


 俺が手を掲げる。レイとセイジも勢い良く手を掲げた。


 落ち着いた時を見計らったかのように、レイが俺とセイジに向けて、


「よし、これでオッケー。すぐに機械の設定するから待ってて」


 と言った。俺とセイジはレイの話に頷いて了解した。レイは俺たちを見ると、すぐに操縦席へと向かって、部屋を出ていった。


 俺とセイジの二人だけになった。俺はふと、窓から俺たちがさっきまでいた“地元”を見つめた。改めて見ると綺麗に思える。そういえば、この船で田舎を出ようと決めた時から今まで何も考えてなかった、もう一つのことを思い出した。


 ここにいつ戻るかということだ。勢いで出てみたはいいものの、これから先の生活の方法すら考えてなかったし、帰るか否かの考えも頭に全く無かった。俺たちのそれぞれが持ってきた食料も一週間で底を尽きるほどの量だった。


 今思うと無計画にも程があった。だけど、あの二人とならば何かあってもなんとかなるかという考えが頭にあったのは事実だ。それほど、俺たちは互いを信じているということだった。


「なんとかなるか」


 つい呟いてしまった。セイジが不思議そうな顔をする。


「お待たせ。準備できたよ」


 そうしているうちにレイが戻ってきた。準備が整ったというので、俺とセイジはレイについていく形で操縦室へと向かう。


 この先については後で考えるか。通路を歩いていて俺はそう思った。


 操縦室へとたどり着いた俺たちは、席についた。レイが計器を操作する。


「じゃあ、準備はいいね? 」


 レイが俺とセイジに尋ねる。俺たちは頷いた。レイはレバーを上げる。イギリスへのワープを開始した。ワープエンジンが起動した反動で、体に一瞬もの凄い圧力がかかった。


 “地元”がどんどん遠くなっていった。

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