第二章
第9話
壮大な旅が始まった。俺たちは船を飛ばして遂に大気圏を突破し、成層圏に達したあとで停泊可能領域で船を停めていた。俺たちは飛び立ったは良いものの、あることを決めていなかった。それを決めるために俺たちはラウンジで会議をすることになった。
少し広い部屋で椅子に腰掛けながら、俺たちは無言のまま睨めっこをする。しばらくしてセイジが口を開いた。
「なあ、行き先決めてなかったよな? 」
俺とレイが頷く。セイジの言うとおり、俺たちは行き先を決めていなかった。今思うと、とても愚かだった。ただ勢いで始まったこのドライブは俺たちの性格が現れていた。
「じゃあ、どこへいこうか? この船と僕らの力で行けるところは限られているし」
レイの言う通りだった。この船の一回の燃料補給で飛べる距離は限られているし、俺たちはパスポートを持っていなかったので、“この国”が管理している星にしか停泊できなかった。
「少なくとも、半径二十光年以内の星にしか飛べないよな…… 」
俺が呟いた。俺たちの住んでいる“この国”はだいたい半径二十光年分の領域を保有している。この半径二十光年は俺たちにとってはそこそこに広かったが、それでもこの時代に人類が進出している領域全体の十五分の一に過ぎなかった。
「……、まずはイギリスとか行ってみないか? 」
セイジが行き先を一つ思いついた。その星は、かつて地球にあったイギリスという歴史のある国の住人たちが移り住んで作り上げた星だった。“この国”の領域の一つで距離もここから近くだったので簡単に行ける。
「いいぜ」
俺はすぐに賛成した。レイも少し考えてから、
「僕も賛成」
と同調した。
「じゃあ、決まったな」
セイジが嬉しそうにこう言った。レイはすぐに進路の設定のために操縦室へと向かおうとする。だが、
「ああ!! 」
「どうした、レイ? 」
「何? 」
レイが大声を上げて何か思い出したような顔をしていた。セイジと俺が一斉に聞き返す。
「船の名前もつけなきゃいけなかったの忘れてた」
レイに言われて思い出した。そう言われれば、船の名前がなかった。自分たちの船がどれかを識別するために、船体登録番号とは別に船名をつけないといけなかった。この船はもともとは作家が所有していたそうだが、船名登録も作家の失踪と同時に本人が消していたようだったので、改めて名付ける必要があった。この船の二ヶ月間の修理の時にその話題はしていたのだが、すっかり忘れていた。
「どうするよ? 」
セイジが微妙な顔を浮かべる。レイは慌てた調子でこちらに戻ってくる。俺たちはまたしても椅子に腰掛けて、会議を再開することにした。
窓から見える月が大きく感じられた。
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