第8話
俺が荷物を取るために家に帰るとリビングで両親がいつも通り喧嘩をしていた。内容はわからなかったが、母がまたしてもヒステリックになっていて、父は母の話を聞いているようで聞いていなさそうな態度だった。俺は気づかれないように上へと上がろうとした。その時だった。
「あああ!! 」
母は叫びながら玄関を飛び出していった。俺はただ驚いて、階段の上で母が出て行く瞬間を見届けることしかできなかった。
「…… 」
父は相変わらずの表情だった。冷蔵庫から酒を取り出して一杯飲んだ。特に追いかけようとする素振りは全く見えなかった。俺はそれがどういう訳か許せなくなって、リビングに駆け込んだ。
「父さん! いくらなんでも追いかけないのはひどくないか! 母さんだってその態度が許せなかったからあんなになったんだろ! 」
俺は思わず激昂していた。だが、もう何もかもがどうでもよさそうな父にはこの叫びは届かなかったようで、
「だから? 」
とあっさり返されてしまった。
「じゃあ、こんな家こっちから出ていってやるよ! 」
俺はまたしても思わず口に出していた。これくらい言えば、父も考えを改めるだろうと思っていたが、それもむなしい願いで、
「好きにして」
と、どうでもいいように返された。
俺はこのロクでもない男を正すのはもうダメだと思って、拳を強く握りしめてコイツの顔を一回思いっきり殴った。殴ってもコイツは相変わらず、それがどうしたと言わんばかりの顔だった。一時の満足感を得た俺は自分の部屋へと向かい、まとめていた荷物を持って家を出た。
走った、全力で走った。ただ、森にいるであろう二人のために俺は全力で走った。途中で聞こえた救急車のサイレンなんかも気にしないで走った。
後になって知ったことだが、このサイレンが聞こえる十分ほど前に女性と車が衝突し、結果として爆発事故が起きたという。女性は全身が炎で焼け爛れたために身元不明。だが目撃者からの情報を聞く限り、その女性は母だった。
俺は船の前へとたどり着く、そこにはレイとセイジが既に待っていた。
「おそいよ、ワタル」
「いくら待ってたと思うんだ」
「ごめん、ごめん」
やはりこの三人でいると、どことなくだが安心感がある。俺たちは船へと入る。入るやいなや俺たちは操縦室へと入りレイがエンジンを点火した。船の計器たちが一斉に起動する。
「エンジン、異常なし。出力、問題なし。その他計器、問題なし」
スイッチ類を一つずつオンにしながらレイが言った。一通りの確認が終わる。
「よし。飛ぶよ」
レイがそう言ったのを聞いて俺とセイジは改めて覚悟を決め、頷いた。
「じゃあ行くよ。テイクオフ! 」
レイがレバーを上げると船が宙を浮いた。どんどん高度を上げていく。
ついに俺たちの冒険が始まった。
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