第5話
「来たか、ワタル」
俺が座れる状態を整えながらセイジが喋った。
「来たよ。で、なんだよ。話っていうのは」
座った俺が尋ねる。よく見ると、二人の端末には“宇宙船の整備方法”、“宇宙船の操縦方法“などと書かれた電子書籍が表示されていて、紙媒体のいくつかの資料は俺たちが見つけた宇宙船の設計図、部品リストだった。
「…… セイジと僕で考えたんだけど、僕たちであの船を動かせないかな? 」
どうやら、三人揃って船を動かそうと考えたらしかった。俺は同意の意味で頷いてから質問をぶつけた。
「それは、俺も動かしたいとは思う。けどな、そのあとでどうするんだよ? 」
「それは、また同じ場所に戻して、さよならだよ」
セイジが返しを入れる。だが、俺はもっと凄いことを考えていた。
「それじゃあ、あまり意味がない気がする。だから、だから…… 」
俺が言葉に詰まる。
「だから? 」
「だから…… ? 」
レイとセイジが訊き返す。不自然な間が少し空いた。俺はやっと、自分が言いたい事を言葉にできたので遂に口を開いた。
「なあ、行ってみないか? 宇宙とやらに」
「はっ? 」
「…… 」
セイジとレイが俺の突拍子もない提案に唖然とした。二人は船を少し動かして近所の上空を飛ぼうとしていたらしかった。後になって考えると、自分でもあの時の提案は突飛だったと思う。
「宇宙に行くって、どういうことだよ? 」
セイジが訊き返す。俺は少し興奮気味で返した。
「宇宙に行って、どこか違う星に行こう! いろいろ考えるのはその後だ! 」
「つまり、家出するってこと? 」
「違う!ちが…… 、はい。よく考えるとそうでした」
レイが的確な疑問を投げた。俺は苦い顔をしてそれを認めた。
俺たちは静寂に包まれた。何も喋らない俺たちを置いて、時間はただ進んでいく。あと、もう少し経てば日が昇る。俺はこの沈黙を破るため、そして自分の思いを吐き出すために声を振り絞った。
「俺は、もうこんな日々が嫌なんだよ! 田舎町に、学校、うんざりするほど喧嘩する親。こんなのが続く毎日で、やってられんねーよ! 」
「…… 」
「…… 」
レイとセイジが沈黙の中ハッとするような顔を浮かべる。そして
「僕も飽き飽きなんだよ! こんな、何もない田舎町でただ過ごすのは! 」
レイが叫んだ。普段は大人しい彼が抱えていた思いを聞いて、俺とセイジは驚いた。更に
「俺もうんざりだ! 人前で良いやつを演じているのはもうたくさんだ! 」
セイジも叫んだ、三人は揃いも揃って、この日々に不満を抱えていた。だからこそ、俺たちは声を合わせて全力で叫んだ。
「宇宙へ行くぞ! おお!! 」
空には太陽が昇りはじめていて、辺りが明るくなりだしていた。三人揃って叫んだ後に見た朝日はとても美しかった。
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