第一章

第3話

 森の中で宇宙船を発見してから一週間が過ぎた。俺たちは発見して以降森には行っていなかったが、あの宇宙船が誰かに見つかったという話は一度も無かった。つまり、あの船を知っているのは俺とレイとセイジの三人だけという状況だった。


 俺は学校の教室の窓際の席であの宇宙船のことを考えながら、秋晴れの空を眺めていた。そこでは歴史の授業が行われていて、第二次世界大戦が、冷戦が、と教師は言っていたが、今から一世紀も前の出来事を説明されても俺にそれが同じ星で起こった事だとは実感が湧かなかった。俺は仕方なしに時代遅れのノートと鉛筆で板書をした。今の時代、都市部の学校ではタブレット端末で全ての授業を行うというのに、俺たちの学校は今もなお授業を紙で行なっている。そういった些細なことが重なって、俺はこの日々が退屈でしょうがなかった。


 あの宇宙船が有れば、この退屈な日々から抜け出せるのだろうか。この一週間で気がつくと俺はそんなことを考えるようになっていた。船さえあればどこにだって行くことができる。あの船で旅に出れば人生が楽しくなるような気がしていた。



「ねえ、これを見てよ! 」

 

 放課後、俺と一緒に帰ろうとしていたセイジの前にレイが急いだ様子でやってきた。手には紙の新聞を持っている。


「どうしたんだ? 」


 セイジがレイに尋ねる。レイは急いで来たために息が上がっており、一呼吸休んでから話を切り出した。


「これを見てくれ。森の宇宙船の持ち主がわかったかもしれない」


 セイジと俺はレイが持ってきた新聞記事に目をやった。そこには、一人の男の顔写真が載っており、見出しには有名作家行方不明と書かれている。


「どういうことだよ」


 俺がレイに質問する。レイは冷静に答えを返した。


「この写真の作家がこの町で目撃されたのを最後に行方不明になっていて、彼がここまでやってくるのに使われたとされる船もどこにあるかが分からないんだってさ。そして、作家が所有していた船の型は僕たちが見つけた船と同じ型だって」


「それってまさか、俺たちが見つけたあの船がその作家の物だってことか」


「そうなると思う」


「まてよ。じゃあ、あの作家が見つかればそれで話は片付くんじゃないのか? 」


 セイジが食い下がる。確かにその通りだ。だが、レイはすぐにその可能性を否定した。


「それはもうできないと思う。この記事が出てからもう三年は経っているから、この作家の生存は絶望的なんじゃないかな」


「そんな…… 」


 俺たちの間に沈黙が流れた。あの船が仮にその作家の船だったとしたら、作家はあの場所に船を停めたあと、亡くなったという可能性が大きい。つまり、あの船が帰りを待っているであろう人物はもういないのだろうということだった。



 俺たちは一言も話すことなく帰り道を歩いていた。三人揃ってこの事実へのショックが大きかったから、何も話せなかったのだと思う。俺たちの心は大きく沈んでいるのに対して、日が暮れて月が見えるようになった夕空は俺たちに構うことなどなくて、ただ綺麗だった。

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