第4話 記憶力

 翌朝、目を覚ますと場所も身体もなにも変化はなく、タイムリープした世界のままであった。

 昨日、コンビニで弁当を買ったついでに買ったカレーパンを朝食にして、身支度をし学校へ登校することにした。


 学校に着き、教室に入る。自分の席に座るととっくに彩葉さんは俺の隣の席にいた。


「今日は早いじゃん」

「いつもでしょ」

「遅刻常習犯がよく言うわ」

「……え、そうなの?」

「まさか自覚なし?」

「ない」

「昨日も遅刻してたけど」

「……まじかよ」


 やはり都合の悪い記憶は抹消されてるのか。

 それに今昨日って言った? 言ったよな?


 つまりはタイムリープする前にも、俺はこの世界に存在していたのか?

 それとも、タイムリープした瞬間に彩葉さんの脳内には過去の俺の行動が出ているのだろうか。

 謎は深まるばかりだな。


 今回は意識がはっきりとしているので、授業中に寝るなんてことはせずに真面目に受けた。

 隣の席の彩葉さんは俺の真面目っぷりに驚いてはいたが、これが本来の姿だと見せつけてやった。


 とはいえ、授業内容はひどくつまらないもので危うく寝そうにもなったが、教科書やノートに落書きをすることでなんとか免れた。

 そのまま順調に授業は進んでいき、放課後になるのもいざ時間が経てば早く感じるものだった。


「一緒に帰ろ」


 可愛い笑顔を俺に見せながら、彩葉さんはそう言った。


「あぁ」


 内心嬉しくもあるも、頭脳は社会人のくせについ思春期対応をしてしまった。

 恥ずかしかったんだと思う。何故なら、今日こそは絶対に告白すると決めていたからだ。

 なんて固く決意をしても、いざ隣同士で帰り道を歩いてみると、なかなか勇気を出すのは難しい。


「今日は珍しく頑張ってたね」

「いつもな」

「嘘つかない! 昨日はよく寝たの?」

「まぁな」

「ふーん」


 どうしたのだろうか。

 彩葉さんの様子が少しだけおかしい。


「どうした?」

「いや、影くんの家ってどんな感じなんだろうなと思って」

「別に普通だよ」

「一人暮らしなんでしょ?」


 何で知ってんだ。


「何で知ってるの?」

「前に言ってたよ」

「まじか。覚えてない」

「嘘、記憶力大丈夫?」

「今日食べた朝食を覚えてるから、今のところ大丈夫だ」

「昨日食べた朝食は?」

「会社行く前はいつも食べないんだ」

「意味分かんない」


 だろうな。

 俺が未来からタイムリープしたと知ったら、彩葉さんはどんな反応をするのだろう。


 まぁ、多分大笑いするから改めて俺の頭を心配されるかがオチだ。本気で信じたりなどはしないだろうな。


 俺自身も無理に隠したりなんかせず、軽い冗談として言っているつもりだ。現役の時もこんな感じの会話だったろ。


「あ」


 と、突然彩葉さんは何かを思い出したような声を出した。

 すると持っていた鞄を漁りだし、一個の缶を取り出した。その缶を俺に見せた。


「はい、これあげる。好きでしょ、ブラックコーヒー」

「別に嫌いではないが……。何故いきなり?」

「いやー、カフェオレを買うつもりが間違えてブラックコーヒー買っちゃってさ。私、苦いの苦手なんだ」


 あざとく舌をちょっぴりと出し、彩葉は照れていた。

 時々見せる若干のポンコツぶりも可愛い。


 これと言って断る理由もなく、せっかく好きな人からの貰い物だったので潔く受け取った。


「ありがと」

「いえー」


 蓋を開け、一口だけ飲む。


 あれ?

 意識が、なくなった。


「あら、もう戻って来たのですね。素敵な出会いはありましたか?」


 目を開けると、俺の目の前にいたのは彩葉さんではなく最初に出会った少女だった。


「……まじかよ」


 向こうの世界でもブラックコーヒーを飲んだら、元の世界に戻されるのかよ。

 大事なことは最初に言えよ。

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