第37話 余談:オービターの知らないところで話が進む
「やあやあ、皇帝陛下。久しぶりだねえ。それとも、大魔女たる我が本体の写し身と言ったほうがいいかねえ」
「あっ、いきなりマーチ確信的な情報!」
「エレジア、静かにしてたほうがいい。いいところだから」
「あ、ごめんねストーク」
「おほん! ごほん! あのねえ、つまりね、千年掛けて、やっとここまで来たよってことさ」
『お前はまだ、人間としての自我を保ち続けているのか?』
「そりゃあね。こういう人形を作って外に出てるわけだからさ! 外の世界は刺激があっていいよー。常に若返る気分だ!」
『人間としての自我など関係はない。余は魔王を生み出すシステム。無駄を排し、これまで二十三柱の魔王を宇宙へと送り出した』
「はいはい。そうなってしまう自分を儚んで、あんたはあたしをこの世界に放り出したもんねえ。あれだろう? 緩慢な自殺願望みたいなものだったんだろ? こっちあたしも、あんたに抗う魔女って存在を見つけ出して、それとあんたが作り出した世界の殻を突破するスキルを育ててきたのさ。不思議と、年月を重ねるほど見つかるスキルは強烈なやつになっていく」
『それが世界の反作用だ。世界は既に、余がここに存在することを許さぬのだろう。故に、お前という入り口を使ってこうして余を滅ぼしに来たのだ』
「大局的に見りゃあね。だけど、あの子の声を聞いたろう? なーんにも考えちゃいない。手にした強力無比なスキル任せに、ひたすらひたすら前に進むだけさ。うちのストークだってそうだ。レンジって強烈なのもいてね? さて、あたしらの決着もつけようじゃないか、出がらしになっている元魔王様?」
『好きにするがいい。だが、最後の打ち上げだけはじゃまはさせぬぞ……!』
「おっ、やっと戦う感じ? っていうかストークくんしかいないのに戦えるの?」
「僕を感知能力だけの男だと思っているな? レーダーの本当の力を見せてやる。オービターやレンジが前を突っ走るから、いつも手柄を譲ってやっているのだ」
「やる気だねえ!」
「茶化さないでくれ……!」
何やら、俺があずかり知らぬところで話が進んでいる気がする。
だが、俺としては、この邪魔な魔王ジェラルドをぶっ飛ばさねばならないのである。
ここは、皇帝の間みたいなところの天蓋を突き抜け、さらに上へ上へと向かう螺旋構造の中。
『止まれ! 止まれ、アストロノーツ!! お前のような何の主義も主張も無い暴漢が、この偉大なる所業に手を出してはならんということが何故分からぬ!!』
「偉大もクソもねえだろ。あんな魔王なんて暴力装置でしかないもんを外の世界にぶっ放す? んで、その世界に魔王が居着くんだろ。そんなん、地獄を作る装置でしかねえだろ。人様に迷惑掛けるなって教わらなかったのかお前!」
『私の生まれは陛下に従う貴族だ!』
「なんだてめえ苦労知らずのブルジョワか! 死ね!!」
ムカついてきた!
上に登るのを一旦ストップ。
ここでジェラルドは殺すよ!!
怒った俺は、ビームを制御しようとかそういう頭はない!
「フレイムビーム!!」
『その技は私には効かん!!』
「中級が効かねえ!? 化け物め! ならこいつをガイドにしてっ! コキュートスビームっ!! 死ねブルジョワーッ!!」
次の瞬間、俺の腕一本が冷気のビームそのものと化した。
一瞬でフレイムビームが飲み込まれ、炎が凍りつく。
うおおお!?
俺の意識がビームに持っていかれそうになる。
やっぱり上級魔法ビームはやばい!
ビームが触れたものは何もかも凍りつき、砕け散っていく。
『おおおおっ、こ、これはぁぁぁぁぁっ!!』
今まで俺のビームを食らってもびくともしなかった、ジェラルドの肉体が凍りついていく。
そう言えばこいつ、何の魔王だったんだろうな……。
獣みたいなのを纏ってたけど、あれも何だったんだろうなあ……。
まあ、いいか。
俺は考えるのをやめた。
思考停止した俺の前で、ジェラルドが氷の彫像に変わっている。
だが、この状態でももしかしたら復活してくるかも知れない。
ここは慎重に……。
「どーん!!」
突然壁をぶち抜いて、レンジのロケットが突っ込んできた!
ロケットはジェラルドにぶち当たると、それを粉々に砕いて俺の目の前まで到達する。
あーあ……! 砕けちゃった!
「なんだ、オービターじゃねえか! あのよ、ラプサが内側から直接上がればいけるだろって言ってな! すげえいいアイディアだったんで中に入ってきたんだ!」
「そうかー。やっと気付いたかね……」
「な、なにぃ!? お前まさか既に気付いて……!?」
「……割と……みんな気づくと思うの」
ラプサが申し訳無さそうに言った。
だよねえ。
レンジの勢いがあまりにも凄いので、なかなか言い出せなかったのかも知れない。
「そういやレンジ、ついでと言ったらなんだが、下にストークもいるんだ。あとなんか皇帝? とかいう奴? もいるんだけど」
「へえ、誰だそれ」
「……レンジ、帝国で一番えらい人だよ」
「へえー」
「ふーん」
「……オービターも!」
ということで、一旦ストークを迎えに下の階に戻るのである。
あいつのことだから、きっと皇帝と戦っているだろう。
「ついでに皇帝もぶっ倒して行くか、わっはっは!」
「よしいいぞレンジその意気だ! 突っ込め!」
「うおっしゃー!!」
かくして、床面をぶち抜きながら落下するロケット。
下降して行く目の前で、今まさにストークは皇帝と戦っていたのである。
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