第36話 皇帝:オービター怒る

 そこは真っ暗な部屋だった。

 部屋と言っていいのか?

 とんでもない広さの空間だ。


「あー、これは、あれだねえ……」


 エレジアが囁く。


「あれですか」


「あれだよ。塔の中にあるめちゃくちゃ大きい空間なんか、二つしか無いじゃない」


「二つですか。そりゃあ一体なんだい」


「一つは、魔王を打ち上げる場所」


「ほう!! つまりここが、俺たちの最終地点ってことか!」


 俺は両手に、ビームをピカピカと光らせる。


「落ち着きなさいな。あと一つあるって言ってるでしょ」


「ああ、そうだったそうだった」


「それが皇帝の間ね。帝国って言うだけあるから、皇帝だっているでしょ」


「なるほどねえ……」


 俺の手に灯ったビームの光で、周囲を照らそうとしてみる。


 すると……。

 恐らく、壁面に当たる部分に輝きが灯った。


 それは次々に、空間を包み込むように灯り始める。


「やはりお前たちもいたか」


「噂をしたらストークとマーチじゃん。……あれ? レンジは?」


「知らない」


 あいつどこ行ったんだよ。

 広大な部屋の中、その中心に盛り上がっている部分があった。


 でかい椅子がある?

 椅子の上には、金色に光る鎧姿の奴が座っている。


 あれが皇帝かな……?

 近寄って聞いてみようじゃないか。


「おーい、あんた皇帝……」


「オービター下がれ! 一人いる。魔王の生き残りだ!」


「うおお!!」


 ストークの声に、慌ててブラストビームを吹かす。

 高速で俺が後ろに下がると、さっきまでいたところに巨大な獣の顎みたいなのが出現し、空間を抉るところだった。


『無礼者! 下がれ!!』


「なんだなんだ! っていうか、生き残りの魔王に決まってるよな!」


 それは、灰色のスーツを着た男だった。

 体の半分が、同じ色をした獣の頭と一体化している。


『我はロイヤルガードのジェラルド! 皇帝陛下を守る最後の砦なり!!』


「なるほど、最後の魔王か」


 これは、皇帝陛下とやらの目の前で戦うことになるな。


『お前たちの前に散っていったロイヤルガードの無念に報いるためにも、私がここでお前たちを……!!』


『ロイヤルガードよ、よくぞ時間を稼いだ。そなたらの働きは十分。これにて、魔王を打ち上げる用意は整った』


 突然、金色の鎧が喋りだしたので、俺はびっくりする。


「喋れたのかあ!」


「皇帝だもん」


 エレジアに言われてみればそうである。

 だが、衝撃を受けたのは俺だけではない。

 ジェラルドと名乗った魔王もまた、驚愕に目を見開き、皇帝を見ている。


『陛下! それは一体、どういうことで……!』


『世界の流れには抗うことは叶わぬ。異物たる我らを、世界が排除に来たのだ。だが、この星が産み落とす最後の魔王二柱は、じきに空へと上る。宇宙を越え、新たな星に辿り着き、それを食い尽くす。我ら、宇宙を蚕食する魔王種は滅びぬ……!』


「難しい事言ってるんだけど」


「何言ってるんだろうねー」


 俺とエレジアでヒソヒソ話をする。

 何かそれっぽい事を言われているが、俺もエレジアも、なんつうか、俺たちを追放したクソな世の中なんかどうなろうが知ったことじゃない、という感じでここまで突き進んできている。

 世界が云々とか言われても、俺たちがやりたいからここまで来ているだけである。


「おいおい、魔王に皇帝。なんか俺たちを大層なもののように言っているが、俺はあれだ。世界をこういうクソな感じにした帝国と皇帝をぶっ飛ばすために来たのだ」


『なにっ!? お、お前には大義というものが無いのか!! そんなちっぽけな個人の怒りをぶつけるために、我らに戦を仕掛けたというのか!』


 魔王ジェラルドが怒り半分、呆れ半分で尋ねてくる。


「それ以外に何もないだろう! お前らな、『はい、お前たち不良品なんでこのまま消えろ、ポイ、あるいは殺す』とか言われて、はいはいそうでございますかって放り出された側が消えると思ってるのか! 話してたらムカついてきたぞ死ねっ!!」


 抜き打ちに狙いも付けないフレイムビームをぶっ放す。


『危ない!』


 ジェラルドが慌てて立ち塞がって、皇帝へ向かうビームを止めた。


『よりにもよって、お前のような何も考えていない暴漢が帝国を! この世界を揺るがすほどの力を得たというのか!』


「わっはっは、そりゃあ傑作だな! つまりこの世界は、俺のようなチンピラにぶっ壊されるわけだ!」


『きっ、貴様ーっ!!』


 かくして、魔王ジェラルドと俺の、周囲への被害を考えることもない大暴れが始まる。

 エレジアがこれをみて、実に嬉しそうに手を叩いて笑っている。


 彼女もまた、魔女になった瞬間に世界から排斥されたのだ。

 そちゃあ、そんな世界はぶっ壊したいよな!


 俺も彼女も、特に未来へのビジョンはない!

 ビジョンはないが、俺たちが世界をぶっ壊せば世界全体がビジョンを失うのだ。

 つまり平等の完成である。


 全身からビームをぶっ放しつつ、ジェラルドともみ合いながら塔の内部を駆け上がっていく俺。

 ハリケーンビームを纏って舞い上がる俺の後を、ジェラルドが追ってくるのである。

 自然と、上に上に向かっていく戦いになる。


 おや?

 これってもしかして、ついでに打ち上げ途中の魔王をぶっ飛ばせるってやつじゃないんですかねえ……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る