第35話 中層:合流
刃の魔王を撃破し、塔を登っていく俺とエレジア。
なんつうか、この塔の中身は螺旋状になっているようだ。
それも、何本ものルートが絡まり合う複雑な螺旋。
途中、半端な魔王が一体出てきたので、
「おらあっ! お試し上級魔法、インフェルノビーム!!」
「ウグワーッ!!」
相手が正体を表すまでもなく、一撃である。
蒸発した。
ついでに塔の一部も蒸発した。
「うわーっ!?」
「やばいやばいやばい!! やばいよオービター!! これ、本当にやばいやつだよー!!」
「俺も今、ぶっ放したらビームに全身持っていかれるかとおもったよ! やっべえー。壁と床が蒸発したぁぁぁ」
サラッと流したけど、上級魔法のビームは本当にヤバい。
これ、あれじゃないか?
人間が手にしちゃいけない次元の力じゃないか?
狙いをつけられずに暴発した感じで放たれ、掠った魔王が消滅し、直撃した一角は大きく抉れている。
放たれた先にあった雲に巨大な穴が空き、青空が覗いていた。
「……これ、魔王と戦うには強すぎるんじゃないか? 危ないってこれ……」
「私もびっくりした。だけどほら、出来損ないの魔王くらいなら中級魔法でもいけるけど、この塔には打ち上げられる前の本物がいるの。それ相手だと、ほら、これくらいは使えないとね……?」
「いやいやいや、だって卵から孵りたての魔王は初級魔法のビームで倒してなかったっけ?」
「育ってるから! 相手も育ってるから! ね。私が手伝ってあげるから、行こ?」
エレジアにくっつかれると弱いなあ!
やばいやばい、俺の中の自己肯定感が高まってきちゃうじゃん!
「あー、そうかな? そうかなあ! じゃあ、やっちゃおうかなあ」
俺はやる気になった。
とりあえず、塔の半ばがまるごと抉れたので、ここは飛び越えねばなるまい。
上の階にショートカットできそうじゃないか?
「よっしゃ、エレジア、掴まれ!」
「はーい!」
むぎゅっと来た!
大変柔らかである。
「うおお! ブラストビーム!!」
風のビームをぶっ放しながら、俺は通路から上へと飛び上がった。
猛烈な勢いで上昇していく。
「……おや? ブラストビームが前よりも安定してない?」
「言われてみればそうだな? より上位のビームを使ったんで、下位魔法のビームの制御がしやすくなったとか?」
「ありそう。でさ、オービター。だいたい、こういう強力なビームを身に着けたら、副作用とかありそうなもんだけど……どう?」
「大丈夫そう? いや、なんかさっき、全身がビームに変換されて持っていかれそうになったけど」
そう、上位のビームは、俺の腕まるごと一本から放たれる。
こいつがもう、気を抜くと、全身がビームそのものになりそうな勢いなのだ。
もちろん、俺をまるごとぶっ放したらアレだろう。俺は消えてなくなるだろう。
「正味、ヤバいね」
「ヤバいかー」
危機感のない会話をしながら、俺とエレジアで上の階へ到着。
すると、少し遅れて真っ白なロケットが打ち上がってきた。
「なんか後ろで大穴が空いたと思ったら、お前かオービター!! 死ぬかと思ったじゃねえか!」
「……寿命が縮まった……」
おお、レンジとラプサ!
「じゃあ、俺らはさらに上に行ってるからよ! お前らは後から来るがいい! わっはっはっはっは!!」
ウォールロケットは、上の階に突き刺さった。
「俺たちも負けちゃいられねえな。ストークはなんだかんだで大丈夫だろ」
「マーチもいるしね」
「おや、エレジア、マーチを信頼している?」
「うーん、信頼というか……私やラプサと、彼女とは根本的に別物でしょ」
「別物?」
何やら意味深なことを仰る。
「別物って言うと、あれか。実は帝国の回し者!」
「まっさかあ」
「じゃあ、実は魔王!」
「ありえないでしょー」
「実は大魔女!」
「……」
「えっ、マジ!?」
なんか今、沈黙が肯定だとするととんでもない事実が明らかになったような!?
いやいや、まさか、まさかな。
塔の中の螺旋構造を駆けて行く俺たち。
とにかく、この塔がでかい。
塔の中に、俺が生まれ育った村がまるごとひとつ入ってしまうだろう。
魔王連中も、あれ以降出てこない。
ここまで何体倒したかな?
砦で一つ、この間が三つ、さっき二つで、六つ?
レンジやストークも一つずつやっつけているとすると、八つくらい仕留めたか?
さすがに十も二十もいないだろ。
打ち止めでしょう。
「あのねえ……ラプサに聞いたんだけどさ、マーチは彼女より前からいたんだよねえ」
「えっ、その話続いてたの!?」
「何人も、突破スキル持ちの子を育てたって。で、今度はいけるかもって話してた」
「マーチが普通の魔女だとしてもさ、幾つだよ」
俺たちの前にいた突破スキル持ちは、みんな殺されるか死んだかしたんだろうな。
「ということで、マーチの真実がここで見られそう?」
「エレジア、なかなか余裕だね……」
「私、魔女になった時から、何事も楽しく受け止めることに決めてるの」
そういや、エレジアは大概の状況で笑顔だな。
マーチよりも笑ってるかも知れない。
ここまで談笑しながら彼女と歩いているが、敵が出てくる気配は全く無い。
兵士みたいなものすら、この塔の中にはいないのか。
そして、どれだけの距離を歩いたことだろうか。
俺たちは、螺旋の中心に鎮座するその部屋に到着したのだった。
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