第32話 魔王突破:帝都侵入

「飛翔のグスタフがやられた!!」


「おのれ、卑怯な!」


 卑怯とか何とか言ってる場合か!


「よっしゃ、行くぜえ!! ハリケーンビーム!!」


 俺は全身に、中級魔法のビームを纏う。

 嵐を呼びながら、空を飛ぶような外見になる。

 このままでは、暴走してどこまでぶっ飛ぶかわからなくなる。


 なので、姿勢制御をブラストビームで行う!

 基本は猛烈な速度でぶっ飛ぶビームなのだ。


「近づいてきたな!」


「我らを相手にたった一人で!」


 残る二人は、黒い甲冑を纏った巨漢と、赤いローブを着た細身の男だ。


「うおおおお! 魔王変身!」


 巨漢が吠えた。

 キャロラインと違って、積極的に変身する方針らしい。


 黒い鎧のシルエットが大きく膨れ上がり、牛と狼みたいな肉食獣を組み合わせたものになる。


『俺様は獣の魔王、ベヘモス!! 捻り潰してやるぜえええっ!!』


 ベヘモスと名乗った魔王が、巨体に似合わぬ身軽さで飛び上がり、上空から俺を押し潰そうとする。

 だが、それでも大変遅いのだ。


「通過ッ!!」


 俺が纏うハリケーンビームの速度は、そんなものではない。

 ベヘモスの腕の間をくぐり抜け、一瞬で背後に至った。


「乱射、フレイムビーム!!」


 狙いを定めず、デタラメにフレイムビームをぶっ放す。


『うがががががが!!』


 ベヘモスがビームを当てられて呻く。


「油断するなベヘモス! キャロラインを倒した連中だぞ! 我らが手にかけてきた魔女の騎士とは次元が違う!」


 赤いローブの男はそう告げると、手を差し出して指を鳴らす。

 すると、二頭の馬と男の輪郭が溶けた。


 それが舞い上がり、炎になって一つになる。

 こいつは炎の魔王か!


『我は灼熱の魔王イフリース! 炎は我には通じぬぞ! 焼き尽くしてやろう魔女の騎士!!』


 奴が実体を現しただけで、周囲の温度が一気に跳ね上がる。

 並び立つ、獣の魔王ベヘモスと灼熱の魔王イフリース。


 まあまあ絶望的な光景ではある。

 今までなら。


「ハリケーンビーム停止! レンジ!」


「命令すんな!! あ、呼んだのか? おう!」


 ビームを停止して落ちてくる俺の下に、ウォールロケットが滑り込んでくる。

 でかい。

 ブラストロケットの二十倍くらいの横幅があるな!


 ストークも既に、ロケットの上だ。


「なるほどたった二人の出来損ない魔王で、僕らを食い止められると思っているわけだ」


『出来損ないだと!?』


『我らはロイヤルガード! 皇帝陛下をお守りするために、この星に残った精鋭よ!!』


「走査」


 ストークが両手を交差させて目を閉じる。

 うわ、そのポーズかっこいいな!


「お前たちの力は見切った。実に分かりやすい能力だ。筋力に特化した魔王と、炎の行使に特化した魔王。全ての魔王がお前たちのように分かりやすければ、与し易いのだがな。オービター、レンジ。思い出せ」


 ストークが告げる。


「僕らが最初に戦った魔王、アレクライス。あれが育てば、こんなものではなかったぞ。僕らは未だに、アレクライトスの能力が一体何なのかを理解できていない。不可視の腕で人を掴み、光に変えて吸収する。言うなれば暴食の魔王。それは肉体でも現象でもなく、概念だ。つまり……こいつらはそこに辿り着いていない」


「なーるほど。……つうか、俺らよくアレクライスに勝ったなあ」


「卵だったからな!」


「そういやそうかー」


 納得である。

 つまり、世界の外に向かって打ち上げられる魔王は、育ってしまったアレクライスみたいな奴らだということだ。

 なーるほど。


 それを考えると、目の前にいる二人は前哨戦だな。


『舐めた口を叩くなあああっ!! うおおおおおっ!!』


 ベヘモスが大地を蹴り、飛び上がる。

 その背中に翼が生まれ、大きく空を打った。

 巨体が飛ぶ。


『うおおおおおーっ!!』


「ほう、ウォールロケットと真っ向からぶつかり合うつもりか! おもしれえ! 行くぜえ!! ……オービター、誘導してくれえ」


「へいへい。ブリーズビーム!」


 ウォールロケットが、ベヘモスと正面衝突の軌道に入る。


「何もさせるつもりはない。行くぞ。逆位相……!!」


 ストークが手を打ち合わせる。

 すると、彼の全身から波のようなものが空を伝って放たれた。


『ふおおおっ!?』


 ベヘモスの翼が消失する。

 空中での姿勢制御手段を失い、獣の魔王が落下を始めた。そこに真っ向から突き刺さるウォールロケット。

 下方に向かって超加速!


 俺は、傾いたロケットの上を滑りながら十指を魔王に向ける。


「ファイアビーム十連!! そして……フレイムビーム二連!!」


『おごごごごごごっ、ウグワーッ!!』


 頭部にビームの連続攻撃を受け、ベヘモスは断末魔の叫びを上げた。

 そして、爆散。

 ベヘモスの背後に、ウォールロケットが抜ける。


『ベヘモースッ!! おのれ、おのれ貴様ら! ベヘモスは我の……』


「アイシクルビーム十連!! 重ねて、二連ブリザードビームッ!!」


 凍りつく白と青のビームが放たれ、言葉半ばのイフリースをぶち抜いた。

 さっきから、下級魔法ビームをガイドにしての中級魔法ビーム二連発!

 いけるじゃねえか!


『うがががががががっ、こ、こんなところで我が!? そんなバカな! これでは、我らはまるで噛ませ犬の……ウグワーッ!!』


 イフリースの全身がみるみる凍りついていき、ウォールロケットに衝突されて粉々に砕け散った。

 うーむ、ウォールロケット、頑丈だな!!

 実質、魔王3キルだぞ!!


「がははははは!! これならフィンロケットもオーバーロケットも必要なかったか!」


「何っ、なんだそれは!?」


「わはははは、お前には教えてやらねえ!」


「何だとこの野郎レンジ!」


「やるかこの野郎!」


「何だこの野郎!」


 ムギャオーッ!!とロケットの上で揉み合う俺とレンジ。

 それを、腕組みしなあら冷静に眺めているストーク。


 そして俺たちはこんな状況のまま、突進。

 ウォールロケットが外壁を粉砕しながら、ついに帝都への侵入を果たすのだった。

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